小説家デビュー十周年を迎える、脚本家・小説家の宇山佳佑さん。
節目となる記念対談のお相手としていらしてくださったのは、

アイドルグループ「なにわ男子」のリーダーであり、俳優として、近作では映画・ドラマ『君がトクベツ』で主演を務めるなど、多方面で活躍中の大橋和也さんです!
宇山さんの長編小説『桜のような僕の恋人』が愛読書だという大橋さんと、じっくりお話しいただきました。
小説の魅力、脚本と小説の違い、宇山作品を大橋さんが演じるとしたら、おふたりがここまで走り続けてこられた理由とは……。
盛りだくさんの対談をお楽しみください!

(2025年9月 六本木にて収録)

構成 タカザワケンジ 
撮影 神ノ川智早
ヘアメイク 花井菜緒(JOUER)(大橋担当)
スタイリスト 大内美里(大橋担当)

ドロドロした小説が好き

大橋 小説家の方と対談するのは初めてなので、お話をいただいた時、「あの『桜のような僕の恋人』の著者さん? えーっ? 僕でいいんですか!?」と驚きました。なんで僕なんやろと思うと同時に、すごく嬉しかったですね。

宇山 こちらこそ、お受けいただいて嬉しいです。大橋さんは『桜のような僕の恋人』が出たばかりの頃に、「この小説が好きだ」とテレビでおっしゃってくださいましたよね。それがすごく嬉しくて、いつかお話ししてみたいと前々から思っていたんです。『桜のような僕の恋人』を読んでくれたきっかけは何だったんですか?

大橋 僕、もともとはドロドロした小説が好きだったんですよ。貫井徳郎さんとか中村文則さんとか、ジャンルでいうとミステリーとかホラーですね。でも、たまには恋愛ものも読みたいし、泣ける小説はないかなと思って。検索していたら、最初に出てきたのが『桜のような僕の恋人』だったんです。お試しで最初のほうを読んだら「うわ、めちゃくちゃええ!」と(笑)。買って読み始めたらほんまに夢中になって、朝から晩まで読んじゃいました。

宇山 朝から晩まで……! それは嬉しい。ありがとうございます。

大橋 小説で泣いたのは『桜のような~』が初めてですね。文章しか読んでいないのに、想像で頭の中に映像が浮かんで、感情がぶわーっと高まって、自分でも驚きました。そんな小説に巡り合えて本当によかったなと思いました。

宇山佳佑『桜のような僕の恋人』
美容師の美咲に恋をした晴人。彼女に認めてもらいたい一心で、一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指すことに。そんな晴人に美咲も惹かれ、やがて二人は恋人同士になる。しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。美咲は、人の何十倍もの早さで年老いる難病を発症してしまったのだった。老婆になっていく姿を晴人にだけは見せたくないと悩む美咲は……。きっと、涙が止まらない。桜のように儚く美しい恋の物語。


宇山 そう言っていただけるなんて光栄です。ドロドロした小説が好みとおっしゃっていましたけど、もともと小説を読むのがお好きだったんですか?

大橋 高校の時に好きになりました。それまではずっとマンガが好きで、「小説を読んでたらカッコいいんちゃうか」という軽い気持ちで小説を読みたいと思ったんです(笑)。小説を読んでる友だちに何がいいかお薦めを聞いたら、「貫井徳郎さんの短編集なんかいいんじゃない?」って言われて。いざ読んでみると「小説ってめっちゃおもろいやん!」となりました。それまで想像しながら物語を読むということをしたことがなかったんですけど、やってみると面白いし、文字を読むのはすごく新鮮でしたね。

宇山 僕も学生時代に貫井さんの小説を読んでいたんですよ。「症候群」シリーズから読み始めて、しばらくハマっていました。

大橋 一緒ですね! でも恋愛小説のイメージが強い宇山さんが貫井さんを……。意外です。

宇山 実は僕も、ラブストーリーってほとんど読んでこなかったんです。馳星周さんのノワール小説とか、人間のドロドロした部分を描いた物語のほうが好きなんです。

大橋 えー! 驚きです。読むのと書くのとでは違うんですね。宇山さんが小説を読むようになったきっかけは何だったんですか。

宇山 高校生の頃、友だちがあまりいなくて、昼休みにやることもないから、人の少ない図書室に入り浸っていて。そこで手当たり次第に読み漁ったのがきっかけですね。エンタメ小説とか純文学とか近代文学、詩や外国小説とか、いろいろ読みました。当時はまだスマートフォンもなかったので、時間を潰すのにはちょうどよくて。読書って夢中になれますよね。文字だけなのにたくさんのことを想像できるし、世界中のいろんな場所に連れて行ってくれる。僕にとって最高の娯楽でした。大橋さんが小説を読む時はどういう時ですか? 

大橋 自分の世界に入りたい時ですかね……。仕事柄、人としゃべることが多いので、一人になりたい時には小説が一番なんです。ほんまに忙しい時は読めないですけど、ちょっとほっとしたい時とか、リラックスしたいという時にも読みます。その逆に泣きたい時とか笑いたい時にも小説はいいですね。

宇山 ご自宅で読むことが多いですか?

大橋 自宅が多いですね。一番リラックスした状態で読めるので。僕、食べるのが好きなんで、カフェとかに行っちゃうと、食べるほうに集中しちゃうんですよ(笑)。家でゆっくりソファーに寝転びながら読むのが最高です。

二刀流で活躍する


大橋 そういえば、宇山さんが脚本を書かれたドラマ『スイッチガール!!』、僕、観てたんですよ。

宇山 そうなんですか!? かなり以前の作品なのに……嬉しいです! 二〇一一年の放送なので、もう十数年前ですね。しかもCS放送でした。僕の脚本家デビュー作です。

大橋 たしか脚本家としてデビューされてから小説を書くようになったんですよね。小説と脚本ってやっぱり違うんですか?

宇山 『スイッチガール!!』はマンガが原作ですが、オリジナル脚本も何作か書いてきました。『今夜、ロマンス劇場で』や月9でやっていた『君が心をくれたから』などがそうですね。脚本は、監督とプロデューサーと打ち合わせをして物語の精度を高めていくので、いわば団体戦。小説は一人ですべてを考えるので個人戦といった印象です。その点が大きな違いですね。
 もう一つの違いは、すべてを言葉にするかどうか、です。脚本と小説、どちらもイメージを思い浮かべながら書きますが、小説はそのイメージをすべて言葉にして紙の上に書いていきます。登場人物の表情や服装、その日の天気や風の雰囲気、光の加減なんかもすべて。ドラマは監督を始めとするスタッフの皆さん、俳優の方々に表現してもらうことで完成するのに対して、小説は自分一人で完成させなくてはいけないので、言葉を尽くして読者に自分のイメージを伝える。それが最も大きな違いかもしれませんね。
 ただ一方で、僕は小説を書く時でも、映像作品のように書くことを意識しています。セリフが冗長にならないように気をつけるとか、シーンが長くなりすぎないように場面転換をこまめに入れてテンポを保つとか。そういう意味では脚本の経験が役に立っていると思います。

大橋 なるほど……。脚本と小説で通じるところも違うところもあるんですね。

宇山 それこそ大橋さんも、アイドルと俳優の二刀流で活躍されていますよね。スイッチの切り替えってあるんでしょうか?

大橋 僕もそこ、聞かれることが多いです(笑)。でも自分はあくまでアイドルの枠の中の一俳優、一モデルで、一バラエティタレントという考え方なので、スイッチの切り替えというのはあんまりないかもしれませんね。自分の中でやっぱり一番はアイドル、自然に「アイドルの大橋和也」なんです。でも、メンバーに聞いてみたら、アイドルと俳優のスイッチは違うって言っている子もいました。お互い自分の中の正解があるので、僕自身は逆にそういう切り替えのスイッチがあるのがすごいなとも思いますし、違いが面白いなと感じます。
 さっきの脚本と小説の二刀流の話に戻りますけど、いずれにしてもオリジナルのストーリーを一から考えるのってすごく大変なことだと思うのですが、どうやって『桜のような僕の恋人』のお話は考えられたんですか。

宇山 二十歳ぐらいの時かな、大学のキャンパスを歩いている時に、物語の肝となるシーンを思いついたんです。その時は学生だったので執筆はしませんでしたが、その場面だけは頭の中にずっとあって……。小説家としてデビューしたあと、その場面に至る物語を書きたいと思って、担当編集者さんに相談したのがきっかけでした。

大橋 『桜のような~』は最初の出だしも面白くて、僕、すごく好きなんですよ。主人公の男の子が美容院に髪を切りに行って、気になっていた美容師の女の子に耳たぶを切られちゃう。すごい出会いですよね(笑)。

宇山 少女マンガみたいなスタートにしようと思ったんです。ラブコメっぽい感じといいますか。物語は中盤から後半にかけてシリアス展開になるので、前半はとにかくコミカルに、キュンとするエピソードがたくさんあったほうがいいかなと。若い人が読みやすいように、物語に入っていきやすい入口を用意したかったんです。

大橋 そういえば、宇山さんの小説の主人公はみんな若いですよね。

宇山 そうですね。高校生から二十代後半がほとんどですね。人生において、そのくらいの年齢って岐路に立つことが多いと思うんです。進学や就職、恋愛や結婚だけじゃなくて、自分はこれからどうやって生きるべきかを悩んだり。でも人間的にはまだまだ未熟で、大人へと成長していく途中にいる。そういう発展途上の人たちの葛藤を描きたくて若者を主人公にしています。それと、そのくらいの年齢の読者の方々に、ひとつでも響くものがあればいいなと思って。

宇山佳佑さん


「愛らしさ」をまとって演じる


宇山 大橋さんは小説を読んでいて、この役をやってみたいと思うことはありますか。

大橋 しつこくタイトルを出しちゃいますが、『桜のような僕の恋人』です(笑)。ほんまにやりたかったんですよ。

宇山 そうなんですか! 晴人君を?

大橋 そうです。僕が読んだ時は主人公のほうが年上だったと思うんですけど、「この人、かわいいなー」と思ったんです。自分に当てはまるところもあるなと。二回読ませてもらって、一回目は第三者目線で、二回目は主人公の男の子に感情移入して読みました。感情を揺さぶられて、だんだんと自分で演じてみたいと思うようになって……。周りにも言っていたので、ネットフリックスで映像化されると聞いた時には、ちょっと悔しかったですね(笑)。

宇山 二度も読んでくださっただなんて……本当にありがたいです。ネットフリックスで映像化した『桜のような僕の恋人』は、大橋さんと同じ事務所の先輩の中島健人さんが晴人君を演じてくださいましたね。

大橋「くそー、健人君かー!」って思いました(笑)。ほんまに言ってたんですよ。〝晴人役をやりたい〟って事務所の人にも。

宇山 すごく光栄です。ぜひいつか映像の世界でもご一緒したいですね!

大橋 宇山さんの小説で、僕に合いそうなキャラクターっていますか?

宇山 新刊の『風読みの彼女』の主人公・野々村帆高が合っているんじゃないかな。年齢的には今の大橋さんより少し下で、二十二歳という設定ですが、勝手ながら雰囲気がぴったりだなと。帆高君は物語冒頭、ある理由から引きこもっていて、ちょっとヘタレなところからスタートするんですよ。そんな彼がヒロインと出会って、様々な依頼を通じて成長してゆく……というお話なんですけど、憎めないヘタレを演じるのって、すごく難しいと思うんです。ある種のかわいさがないとできない。

 以前、大橋さん主演の『君がトクベツ』の映画を拝見したんですが、もともと持っていらっしゃる愛らしさというか、人懐っこさみたいなものがにじみ出ていました。すごくナチュラルで素敵に演じていらっしゃったので、大橋さんなら帆高君のこともチャーミングに演じてくださるような気がしています。

大橋 観てくださったんですか、ありがとうございます! 『君がトクベツ』で、僕は国民的アイドルグループ「LiKE LEGEND」(ライクレ)のリーダー・桐ヶ谷皇太を演じさせていただいたんですが、皇太はモロにアイドルで、モロに僕そのまんまやったんですよ(笑)。アイドルだということもそうですし、グループのリーダーという立ち位置もなにわ男子での僕と一緒。原作者の幸田もも子先生にも伺ったんですが、そもそも僕をイメージして描いてくださった部分もあるらしくて……! 自分に近い役なので、演じやすいといえば演じやすいんですけど、僕ではなく桐ヶ谷皇太として見てもらうにはどうしたらいいか、というところが難しかったです。

宇山 愛嬌があって、かわいらしくて自然でしたよ! 大橋さんは役を自分に引き寄せるタイプなんでしょうね。そうかと思うと、泣き崩れるシーンは真に迫っていて感動しました。演技の幅が広くて、すごいなと思いましたね。

大橋 その映画の後には、ドラマ『リベンジ・スパイ』という作品をやらせていただいたんですけど、復讐のために企業に潜入するという自分とは全く違うタイプの役で……。これはこれで演じていて楽しいなと思いましたね。

宇山 いろんな役をやってらっしゃる大橋さんを見てみたいです。意表を突いて悪役とかどうですか? たとえば殺人犯役とか、意外とはまったりしますかね(笑)?

大橋 実はめっちゃやってみたいです(笑)。犯人役は以前一回やらせていただいたんですけど、同情できるような犯人役だったので、いつかもっとサイコパスで非現実的な役、現実世界では絶対できないような役にチャレンジしてみたいなという気持ちはありますね。あと僕も宇山さんが書いたドロドロした作品も読んでみたいので、もし書かれた時はぜひ教えてください!

宇山佳佑『風読みの彼女』
僕が恋したあの人は、”風の記憶″を読むことができる――。
横須賀で暮らす二十二歳・野々村帆高。
職を探す彼が偶然見つけたのは、『ガラス雑貨専門店・風読堂』でのアシスタントの募集だった。風読堂の店主・級長戸辺風架さんは、ガラス雑貨の販売に加え、もうひとつ秘密の依頼を受けている――“風読み”の仕事だ。
にわかには信じがたい風架さんの力を求めて、今日も風読堂には悩みと願いを抱えた依頼主が訪れる。
爽やかな風が織りなす、ファンタジック・ストーリー!


いつか小説を書いてみたい

宇山 新刊の『風読みの彼女』は、風は世界中の人々を見つめていて、そのすべてを記憶している……という設定なんです。ヒロインはその風の記憶を読み取って、瓶の中に閉じこめて、誰かに見せてあげることができるのですが、大橋さんはもう一回見てみたいご自身の記憶ってありますか?

大橋 自分の記憶を見たいというより、風の気持ちを聞いてみたいかもしれません。たくさんの人の歴史をずっと見てきて、何を思っているのかなって……。風はしゃべれないじゃないですか。風も動物も、スマホとかモノもそうですけど、僕、全部心があるんじゃないかと思うんですよ。だから気になります。風はどんなことを思いながら人間を見ているのかなって。
宇山 風って不思議な存在で、人間にとっては敵にも味方にもなると思うんです。ヨットや帆船は風がなければ進まない。でも時に人を傷つけることもある。そう思うと、風にも心があるような気がしてしまいますよね。
 僕自身は、風のような自然現象や植物をシンボルにして小説を書くことが多くて、『桜のような僕の恋人』は桜だし、『この恋は世界でいちばん美しい雨』は雨、『ひまわりは恋の形』はひまわりとか。

大橋 ほんまや! 言われてみれば……。

宇山 風については、いつかは書きたい題材でした。ふさわしい物語をずっと探していて、ようやく十年の節目に出す小説として書くことができました。

大橋 まだ読み切れてはいないんですが、これから最後まで読みたいと思ってます。
 実は、僕もいつか小説を書いてみたいと思っているんですよ。ただ、語彙力があまりないので、伝えたいことが伝わらない時があって……。でも文章を書くのは好きなので、一つでもいいから自分なりの小説を書いてみたいなと思っています。

宇山 そうなんですね! どんなお話を書かれるのか、ぜひ読んでみたいです! 大橋さんは本をたくさん読まれているし、ドラマや映画にも多く出ていらっしゃるので、語彙力とは別に起承転結のような物語の基本が身体に染みついていると思うんですよね。なので、きっと書けますよ!

大橋 短い話ならまだなんとか書けそうな気がするので、短編集みたいな本が出せたらいいなって思いますね。それにしても一冊の本を書くのって大変じゃないですか。これは早かった、これは時間がかかったって違いはあるんですか?

宇山 『桜のような僕の恋人』は早かったです。ただ、一度書き上げてから、推敲するのにかなり時間をかけました。読みやすくなるように何度も直して。あとは『この恋は世界でいちばん美しい雨』。この二つは早かったですね。そこから先の作品は時間がかかって苦戦してばかりです。『恋に焦がれたブルー』という作品から描写や表現により力を入れて書くようにしたので悩むことが増えました。さっき大橋さんは褒めてくださったんですが、特に書き出しが難しいんですよね。第一章とか冒頭の百枚ぐらいまで、なかなかキャラクターや物語がつかめなくて、何度も書き直したりということが多いです。

宇山佳佑『この恋は世界でいちばん美しい雨』
駆け出しの建築家・誠と、カフェで働く日菜。雨がきっかけで恋に落ちた二人は、鎌倉の海辺の街で同棲中。いつか日菜に「夢の家」を建ててあげたいと願う誠だが、ある雨の日、二人は事故で瀕死の重傷を負う。"案内人"と名乗る男女の提案によって誠と日菜は二人で二十年の余命を授かり、生き返ることに。しかしそれは、愛し合う二人が互いの命を奪い合う苛酷で切ない日々のはじまりだった──

大橋 宇山さんは家で書かれるんですか。

宇山 家です。脚本家デビューした頃は喫茶店とか外でも書いていましたけど、今はそれが全然できなくなっちゃって。書いていて自分でも泣いたりするので、肝となるシーンは人に見られないように家で書かないとまずい(笑)。

大橋 えー! 自分で泣く時って、書いてからその文を読んで泣くんですか。それとも頭で想像して?

宇山 キーボードを打ちながらも泣きますし、直しながらも泣く(笑)。

大橋 すごっ! そうなんや。それだけ感情を込めて書かれているんですね。だから読者の自分も泣けたのかもしれません。

宇山 僕自身が泣けないものは、読者や視聴者もきっと泣けないと思っているので、自分の感情が動くことは書く上で大切にしています。

大橋和也さん

長く続けると見えるもの


――宇山さんは二〇二五年で小説家デビュー十年。大橋さんも子役時代から長く活躍しておいでですが、改めてこれまでを振り返ってみていかがですか。

大橋 僕は今の事務所に入ってから十七年目で、その前からを含めると芸能のお仕事をするようになって二十一年です。怒濤のようでしたね……。今の事務所に入った時に、最初は高校卒業までやろうと決めていたんです。でもある舞台で初めて外部の人と仕事をする機会があって、広い世界が見えたので、もうちょっと続けてみることにしました。ちょうどその時になにわ男子が結成されることになって、それでまた世界が広がって。
 今日の対談もそうですが、続けていくことで新しい出会いがあるんだなと感じています。これからもまだ新しいことがあるんだろうと思うので、何年も重ねていくことの楽しみが増えましたね。

宇山 二十一年も厳しい世界で闘ってきただなんて、並大抵の努力ではなかったと思います。本当にすごいことです。様々なご縁や出会いがあって道を切り拓いてきたんですね。 
 あくまでご自身は「アイドル」なのだとおっしゃっていましたが、アイドルとして誰かを笑顔にしたい、という気持ちはずっと変わらずですか?

大橋 そうですね。昔、スーパーヒーローとか仮面ライダーがめっちゃ好きやったんです。だから人を元気にしたい、笑顔にしたいという思いはずっとありました。小学校二年生でダンスと歌の世界に入った時も、最初は嫌々やったんですけど、僕のダンスを見た人が「カッコいい」「すげえな」って言ってくれたことがあって。その時その人がめちゃくちゃ楽しそうに話してたんで、「あっ、ヒーローと職業は違えど、ダンスと歌でも人を元気にできんのや」と気がついたんですよね。最初はゼロだったんですけど、だんだんファンになってくださる方も増えてきて、初めてファンレターをもらった時はすごく嬉しかったな。「大橋君がいるから頑張って生きられます」というような、あたたかい言葉が長文で書かれていて……。心の底からもっと頑張ろうと思いましたね。ファンの皆さんの笑顔を見ると僕も笑顔になれるし、僕の笑顔を見るとファンの方々も笑顔になれる。笑顔と元気をシェアできることが、この仕事のすごくいいところだってずっと思っています。

宇山 そうですよね。僕も時々ファンレターをいただくんですけど、この時代に手紙をもらえるのは嬉しいですよね。文房具屋さんに行って便箋を選んでくれたのかなとか、若い子だとご家族に住所の書き方を教えてもらったんだろうなとか、手紙を出すまでのストーリーを考えると、本当にありがたく思います。

大橋 本当におっしゃる通りで、言葉はもちろん、便箋からもほんまに気持ちが伝わるんですよ。前に自分より一まわり二まわり下、五歳ぐらいの子が書いてくれた手紙が届いたことがあって。こんな小さい子まで応援してくれてるなんて、と感激しました。

――宇山さんは小説家として書いてこられた十年間を振り返ってみて、いかがですか?

宇山 僕はもともと脚本家になりたかったので、まさか自分が小説を書くだなんてまったく考えていませんでした。『桜のような僕の恋人』の頃は、脚本家の宇山佳佑が小説を書いているというような感覚が自分の中にあった。小説家として十年が経って、書ける範囲が少しずつ広がってきて、ようやく表現したいことが小説で書けるようになってきたように思います。そういう意味で、やっと小説家になれたのかなと。ようやくスタートラインに立てたといいますか。これから次の十年でもっといい表現を、もっといい物語を書けるようになりたいですね。

大橋 宇山さんのドロドロした作品が読める日も近く訪れるかもしれませんね(笑)。

宇山 僕も大橋さんの書いた小説をいつか読んでみたいです! もしお書きになられたら、ぜひ読ませてください。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

大橋 お話しできて本当に楽しかったです!