「コロナウイルスは存在しない」「絶対にワクチンを打ったらダメ」「全ては仕組まれたもの」
ああ、友よ。なぜ真顔でそんなことを言い出した……。ネットに蔓延(はびこ)る不確かな情報を誇示しながら、強情に、攻撃的になって、まるで性格が変わったようだ。
君を沼に沈めたのはツイッターか? YouTubeやニコニコ動画か? テレグラム……は、きっとそういうものを見た後だろうな。

「陰謀論」に蝕まれると人はどうなるか。その背景に何があるのか。昨今の社会問題に斬り込んだのが『情報パンデミック あなたを惑わすものの正体』だ。

『情報パンデミック あなたを惑わすものの正体』
読売新聞大阪本社社会部/著(中央公論新社)

読売新聞大阪本社社会部の連載「虚実のはざま」に加筆。新聞記者に対して失礼ながら、純粋なルポとしてクオリティが高い。この厚みの取材を少数で敢行したというのは驚きだ。有識者やデータ分析のプロによる考察、海外の事例も交え、「社会の深い分断」を探るために潜入し、直撃し、臨場感で行間を満たす。

北日本の居酒屋はなぜノーマスク専門に舵を切ったか。ネットで反ワクチン思想をまき散らす神戸の医師の様子は。デマサイト管理者の目的は何か。
長年連れ添ったあの人がなぜ……。誤情報に侵され理解が難しくなった人の家族の苦悩にも触れていく。

見えない何かに隔てられた相手の主張を理解したい。ならば、膨大な資料にあたるのも同然の一冊がある。『あなたを陰謀論者にする言葉』。

『あなたを陰謀論者にする言葉』
雨宮純/著(フォレスト出版)

今の陰謀論を構成するに至るトンデモの近現代史をほぼ網羅していると言っていい。「あの人が言っていたのはこれか!」と、キーワードですぐ引くことができるだろう。

様々な先駆思想、スピリチュアル、カルト団体、自己啓発やマルチ商法、UFOやQアノンに至るまで、闇落ちのきっかけになりそうな多数の事象を丁寧な言葉で解説している。
著者はサブカルチャーにも精通。創作にそれらの要素が使われていることを時折「機動警察パトレイバー」「ストリートファイター」「ポケットモンスター」などアニメやゲームも持ち出して教えてくれる。義務教育で使ってほしいとさえ思う良書だ。

大切な友人を陰謀論から救いたい。
だが、今はまだ誰もが最適な方法を探している。結局は彼や彼女が、自ら悔いて気付くほかないのかもしれない。しかし、事前知識がなく不用意なら、いつだって誰もが何かにハマり込む。
くしくも今回の2冊のタイトルに共通する「あなたを─」。読めばきっと、あなた自身もその沼のふちに立っていることを知るだろう。