大きな声で言えないのだけれど、クリスマスが苦手だ。その始まりは幼い頃に遡る。私は生まれて半年後からひどいアトピー性皮膚炎を患っていて、乳製品、肉類、甘いお菓子などを食べると湿疹が出てしまっていた。食べることが大好きで食い意地が張っていた私にとって、食べたいものを食べられないことは本当に悲しいことだった。

 今でも目に焼き付いているのは、クリスマスシーズンにテレビをつけるとケンタッキーフライドチキンのCMが流れていて、子どもたちがおいしそうに鶏肉を頬張る姿。テレビに手を突っ込みたくなるくらい食べてみたいのに、私はこれを食べたら湿疹が出るのか…という切なさが胸いっぱいに広がった。いわずもがな、乳製品と砂糖たっぷりのクリスマスケーキも食べられない。食べられないものだらけのクリスマスは、食いしん坊の私にとってとっとと過ぎ去ってほしい期間になった。

 大人になってからもその気持ちはあまり変わらず、クリスマスムードに対して疎外感を覚える。私はなぜこんなにもクリスマスが苦手なんだろう? と不思議に思う。そんなもやもやする気持ちを照らしてくれた2冊の本をご紹介したい。
 1冊目は星野概念さんの『こころをそのまま感じられたら』だ。

『こころをそのまま感じられたら』
星野概念/著(講談社)

 星野さんは最近、私と一緒に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』という本を出した。この本では、誰かのためなら頑張れるけど、自分のためになると料理が作れないという状況について、実際に6名の参加者とともにその謎を解いていく。本書に心のケアの専門家として参加してくれたのが星野さんだ。星野さんは、いつも目の前にいるその人の心をそのまま感じようとしている。すぐにあなたはこうですね、と答えを出すのでもなく、煽てたりすることもなく、まるい心で受け止めてくれる。『こころをそのまま感じられたら』は、そんな星野さんが書いたエッセイである。エッセイには人の可笑しさや、うまくいかないむずかしさについて書かれていて、読んだあと、気持ちがなんだか穏やかになれる、そんな本だと思う。私はこの本のタイトルが本当に好きだ。このタイトルをもってクリスマスが苦手だという気持ちをよく感じてみると、別に苦手なままでいいんだとはっとした。クリスマスムードに馴染めない自分でいてはいけないと、心のどこかで思い込んでいたのかもしれない。

 2冊目は伊藤絵美さんによる『カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた』をご紹介したい。

『カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた』
伊藤絵美/著(晶文社)

 この本は臨床心理士である著者が自身の不安や不調(ギャンブル依存、共依存の母親との関係)などに対して実践してきたことをまとめた一冊。この本に出てくる「自動思考」という概念を初めて知った時、あぁ、すごく楽になれるかも! と思った。というのも自動思考とは、自分の意思に関係なく自動的に頭に浮かんでくる認知や感情のことで、それは生々しいものだと書いてある。私がクリスマスに対して感じていたことは、まさにこの生々しい感情の数々。本書の中ではうんこの例(!)が使われていて、自動思考はうんこのように自然と生まれてしまうものなのでしょうがない、ジャッジしないことが大事だと書かれている。でもその感情を押し殺してなかったものにするのではなく、うんこのように「あーあ、今日は大量に出ちゃったな」とトイレに流すように水に流したらいいというアイデアに膝を打った。

 料理家という仕事柄、クリスマスから逃げることはできず、12月になるとクリスマスらしいレシピを出したくなる。でも別にそれでいいのだ。本場さながらのクリスマスのお祝いをしなくても、なんかそわそわしてしまうクリスマスシーズンに人と会う言い訳になればいいと、この2冊がそう思わせてくれた。