恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第26回:社会のニュースに心がくじけそうな時
案内人 高橋ユキさん
2024年01月15日
主に凶悪事件の裁判を傍聴したり取材したりして記事を書いている。傍聴マニアがこうじて、ライターになった。そんな私にこのたび「社会のニュースに心がくじけそうなときに読む本」というテーマを与えられたが、心がくじけていたらこの仕事は続けていない。果たして自分でいいのだろうかという心配をしながら書いている。
とはいえライターになる前の会社員時代、うつ病からの休職、無職を経験した。落ち込みが止まらない日々、悩みに寄り添うような書籍を読んでみても全く的外れで、かえって落ち込みが激しくなったりした。そうしていつしか身につけたのは「考えすぎる前にやめる」こと。気持ちが「やばくなりそう」なときには、そのトピックから離れるのが自分にはいい。仕事と全く関係ないものを読んだり観たりするのが当時は効いた。いまも自然とそうする傾向がある。万人受けするライフハックではないかもしれないが、どこかの誰かの参考になれば幸いである。
群馬・前橋地裁の帰りに、高崎市の書店・REBEL BOOKSさんに立ち寄った。面白そうな本がずらりと並んでいるおしゃれなスペースで手に取ったのは『今井真実のときめく梅しごと』。店内にはなんと青梅も売られていた。両方買えば、家に帰ってすぐに梅しごとに取り掛かれるのである。リアル書店はこういうところが楽しい。
実家の庭には梅の木があり、母はなにやら干したり大きな瓶に詰めたり、毎年せっせと「梅しごと」をしていた。子供時代は、口承により秘密(=家のレシピ)を受け継いだものだけが、梅しごとをする資格があるのだと、なぜか思い込んでいた。そして受け継ぐ前に母はあの世に行った。上級者向けの家事であり、私にはもうその資格がない……それが「梅しごと」のイメージだった。ところが群馬から帰って、青梅を使い、本の通りにシロップを仕込んで数週間……なんと、美味しい梅シロップが完成してしまったのである! 調子に乗って他のレシピも試してみようと、ネット通販で青梅を大量に買い込み、追熟してから「完熟梅のスパイス砂糖漬け」も作ってみたところ……できた! しかも美味しすぎる。これは子供に大好評だった。
こうなってくると梅のなかでも超上級者向け(と思い込んでいた)梅干しもいけるんじゃ? ようやくおそるおそる、ジップロックを使った梅干し作りに挑戦。これも……できた! 作る過程で採れた梅酢もいろんな料理に使える!
気持ちもスイッチできて、自己肯定感も爆上がり、そして梅メニューで生活が楽しくなる。いいことしかない。

今井真実/著(左右社)
寝る前のひととき、仕事と全く関係のない漫画を読む。現在『モーニング』に連載中の福本伸行氏による新作『二階堂地獄ゴルフ』は、所属クラブから支援を受けてプロテストに挑戦し続けている二階堂進(35歳)の物語。なんと10年連続不合格を決めている。漫画の主人公は、努力すれば報われ強くなれるが、二階堂はそうではない。なかなか芽が出ない。そこが逆に面白い。実際の人生では努力してもどうにもならないことがかなりある。漫画の主人公らしからぬ「普通の人」らしさに大人は強いシンパシーを感じることだろう。しかも、タイトルに「ゴルフ」とあるのに、なかなかゴルフのシーンが始まらず「いつゴルフシーンが出てくるんだ……」と気を揉む。こうして悩みを忘れて眠りにつく。

プロフィール
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高橋 ユキ (たかはし・ゆき)
1974年生まれ、福岡県出身。2005年、女性の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。翌年、同名のブログをまとめた書籍を発表し、以降、裁判傍聴を中心に事件記事を執筆している。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著・宝島社)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)、『つけびの村 ~山口連続殺人放火事件を追う~』(小学館文庫)など。
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小路幸也
事件、謎、出会い、別れ、新たな命あり。堀田家は、いつもバタバタ。まだまだ続くよ、シリーズ第21弾。