小城郭をいくつか陥し、寿陽や平定という大城郭は素通りし、真定府を全軍で囲んだ。

 真定府まで来ると、山間という感じはなくなり、平原になる。それから東にかけて、ずっとそれは続いていた。

 騎馬隊の動きが有利になるから、真定府攻略に動いたわけではない。平原で、金軍が決戦を挑んでくることはないだろう。

 そろそろ寒い季節になるので、越冬に適した場所として、山間と平原の境を選んだのである。

 テムゲが率いてきた軍が合流していたので、モンゴル軍はかつてないほどの大軍になっていた。

 真定府を急いで攻めろと、チンギスは言っていない。

 城は数えきれないほどあり、その多さは、金国の懐の深さだ、とチンギスは思っていた。城にこだわれば、その懐の奥に引きこまれることになる。

 真定府を間近から囲んでいるのは、歩兵三万のみで、ほかの歩兵は離れたところに駐留していた。

 騎馬隊は、もっと離れた場所で、一万ずつが間隔を置いて布陣した。それで、三重に囲んでいるようなかたちになり、外から真定府に接近する金軍はいなかった。

 チンギスの本営には、大家帳が組み立てられていた。チンギスの居室があり、幕僚たちと会議などもできる食堂があり、大広間もあった。

 両隣には、カサルとテムゲの家帳があり、それを三十ほどの幕舎が囲んでいた。その幕舎の中には、兵站の司令所があり、馬匹の管理をなす者などがいるのだ。

 草原から馬は連れてくるが、食うための家畜は、商人を装った者が買い上げ、運んでくる。方々からのものをいくつかの牧に入れ、そこから軍に入れるもの、再び売るものと分けられて出ていく。

 買ったものを直接軍に運ばないので、どれがモンゴル軍の兵糧に遣われるのか、わからなくなってしまうのだ。

 金国は、物流がやや混乱しはじめている。

 真定府には、ここにモンゴル軍がいるかぎり、一粒の麦も入らないということになる。ただ、城内には数年分の蓄えはある、と推測できた。

「殿、十六名が集まっております」

 ソルタホーンが、居室の外から声をかけてきた。チンギスは、読みかけていた書類を卓上で閉じ、腰をあげた。

 大家帳を出る。従者が二名、ついてくる。十名の従者のうちの二名は、たとえ本営の中であろうと、チンギスから離れない。

 四半刻ほど歩くと、柵が見えた。いや、柵の上には、木の皮などで屋根が作ってある。そこには、二百名ほどの俘虜がいる。戦で捕えた兵というわけでなく、城内の民の中から、人を選んで俘虜としたのだ。

 柵のそばに、小屋があって、衛兵が二名立っていた。

(『チンギス紀 十一 黙示』「新たなる荒野 三」より一部掲載)