チンギス紀 十一 黙示

チンギス紀 十一 黙示

著者:北方 謙三

2021年07月15日発売

チンギス、ついに梁山湖へ。そこは吹毛剣を持つ楊令が、「替天行道」の旗を宋江から受け継いだ場所だった。好評第11巻。

ISBN:978-4-08-771763-1

定価:1,760円(10%税込)

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内容紹介

チンギス・カンは、弟や息子たちと共に金国に大軍で遠征し、攻城戦をおこなっていく。対する金国は、定薛を総帥とする防衛軍を組織し、福興が軍監に就く。ホラズムの皇子ジャラールッディーンは、ジャムカの息子マルガーシらと共にサマルカンドに戻る。マルガーシはアラーウッディーンに謁見を果たした。そしてチンギスは任城に進軍した際、旗を出さずにある場所へと向かう。そこにはかつて漢たちが集まった湖寨があった……。

プロフィール

  • 北方 謙三

    北方 謙三 (きたかた・けんぞう)

    1947年佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部卒業。81年『弔鐘はるかなり』で単行本デビュー。83年『眠りなき夜』で第4回吉川英治文学新人賞、85年『渇きの街』で第38回日本推理作家協会賞長編部門、91年『破軍の星』で第4回柴田錬三郎賞を受賞。2004年『楊家将』で第38回吉川英治文学賞、05年『水滸伝』(全19巻)で第9回司馬遼太郎賞、07年『独り群せず』で第1回舟橋聖一文学賞、10年に第13回日本ミステリー文学大賞、11年『楊令伝』(全15巻)で第65回毎日出版文化賞特別賞を受賞。13年に紫綬褒章を受章。16年第64回菊池寛賞を受賞。20年旭日小綬章を受章。『三国志』(全13巻)、『史記 武帝紀』(全7巻)ほか、著書多数。18年5月、新シリーズ「チンギス紀」を刊行開始した。[写真/長濱 治]

    北方謙三「チンギス紀」特設サイト

試し読み

 小城郭をいくつか陥し、寿陽や平定という大城郭は素通りし、真定府を全軍で囲んだ。

 真定府まで来ると、山間という感じはなくなり、平原になる。それから東にかけて、ずっとそれは続いていた。

 騎馬隊の動きが有利になるから、真定府攻略に動いたわけではない。平原で、金軍が決戦を挑んでくることはないだろう。

 そろそろ寒い季節になるので、越冬に適した場所として、山間と平原の境を選んだのである。

 テムゲが率いてきた軍が合流していたので、モンゴル軍はかつてないほどの大軍になっていた。

 真定府を急いで攻めろと、チンギスは言っていない。

 城は数えきれないほどあり、その多さは、金国の懐の深さだ、とチンギスは思っていた。城にこだわれば、その懐の奥に引きこまれることになる。

 真定府を間近から囲んでいるのは、歩兵三万のみで、ほかの歩兵は離れたところに駐留していた。

 騎馬隊は、もっと離れた場所で、一万ずつが間隔を置いて布陣した。それで、三重に囲んでいるようなかたちになり、外から真定府に接近する金軍はいなかった。

 チンギスの本営には、大家帳が組み立てられていた。チンギスの居室があり、幕僚たちと会議などもできる食堂があり、大広間もあった。

 両隣には、カサルとテムゲの家帳があり、それを三十ほどの幕舎が囲んでいた。その幕舎の中には、兵站の司令所があり、馬匹の管理をなす者などがいるのだ。

 草原から馬は連れてくるが、食うための家畜は、商人を装った者が買い上げ、運んでくる。方々からのものをいくつかの牧に入れ、そこから軍に入れるもの、再び売るものと分けられて出ていく。

 買ったものを直接軍に運ばないので、どれがモンゴル軍の兵糧に遣われるのか、わからなくなってしまうのだ。

 金国は、物流がやや混乱しはじめている。

 真定府には、ここにモンゴル軍がいるかぎり、一粒の麦も入らないということになる。ただ、城内には数年分の蓄えはある、と推測できた。

「殿、十六名が集まっております」

 ソルタホーンが、居室の外から声をかけてきた。チンギスは、読みかけていた書類を卓上で閉じ、腰をあげた。

 大家帳を出る。従者が二名、ついてくる。十名の従者のうちの二名は、たとえ本営の中であろうと、チンギスから離れない。

 四半刻ほど歩くと、柵が見えた。いや、柵の上には、木の皮などで屋根が作ってある。そこには、二百名ほどの俘虜がいる。戦で捕えた兵というわけでなく、城内の民の中から、人を選んで俘虜としたのだ。

 柵のそばに、小屋があって、衛兵が二名立っていた。

(『チンギス紀 十一 黙示』「新たなる荒野 三」より一部掲載)

前巻までのあらすじ

モンゴル族キャト氏の長イェスゲイの長男であるテムジンは、10歳のときにタタル族の襲撃で父を喪った。同じモンゴル族でタイチウト氏のトドエン・ギルテが、テムジンの異母弟ベクテルを抱き込もうとしたため、テムジンはベクテルを討って13歳で南へと放浪の旅に出る。テムジンは、のちに優秀な部下となるボオルチュと出会い、金国の大同府で書肆と妓楼を営む蕭源基のもとで正体を隠して働いた。その時期に「史記本紀」を読んだことが、テムジンに深い影響を与えた。一方、モンゴル族ジャンダラン氏の血気盛んなジャムカは、テムジンと同齢であり、トクトア率いるメルキト族と対峙していた。さまざまな経験を積んで草原に戻ったテムジンは、ジャムカと出会い、お互いを認めて友となる。そんな折、草原に精鋭の50騎を率い、最強ともいえる老年の男が現れる。玄翁と呼ばれ、岩山に住んで傭兵のように雇われる男だった。テムジンは、ケレイト王国のトオリル・カンと表面上の同盟を組み、モンゴル族タイチウト氏のタルグダイらに対抗する。ある戦いでタルグダイ側に雇われて戦った玄翁は、テムジンとの一騎討ちの過程で命を落とすが、テムジンに衝撃的な事実を告げ、吹毛剣を与えた。テムジンは金国とケレイト王国とともに、タタル族との戦いに挑み、父の仇敵を壊滅する。テムジンとトオリル・カンは金国の側に立ったが、ジャムカは金国が草原に干渉することを嫌い、その出兵要請にも動かず、反金国の立場を貫いた。ついにジャムカはテムジンと袂を分かち、テムジンに対抗しようとするタルグダイ、トクトアからメルキト族の長を引き継いだアインガと組んだ。草原が、ケレイト王国とテムジン、ジャムカたち三者連合の、二大勢力に分断されることとなる。そして草原の行く末を決める一大決戦が起き、激闘のすえにテムジンたちが勝利し、ジャムカ、タルグダイ、アインガはそれぞれに逃れた。ジャムカは北のバルグト族のもとに密かに身を寄せ、アインガはメルキト族の領地に戻り、タルグダイは南へと向かう。敗れたジャムカの息子マルガーシは、事件で母を失い流浪することとなる。ケレイト王国のトオリル・カンが、味方であるはずのテムジンを騙し討たんとするが、異変を察したテムジンは逆にケレイト王国を滅ぼした。トオリル・カンの末弟で禁軍を率いていたジャカ・ガンボは逃される。草原に大きな対抗勢力がいなくなり、モンゴル族統一を果たしたテムジンは、ついにチンギス・カンを名乗った。一方、逃れたジャムカは、チンギスとナイマン王国との戦において、ホーロイ、サーラルと共にナイマン軍のなかに潜み、チンギス・カンの首を狙う。チンギスは大軍を率いて少数のジャムカ軍を包囲して結着がついた。その後、母ホエルンを亡くしたチンギスは、今後の戦いを見据えて歩兵と工兵を整備していく。ジャムカの息子マルガーシは流浪のすえ森に住むトクトアと出会い、苛烈な修業を積む。一方、ホラズム・シャー国の皇子ジャラールッディーンは、護衛のテムル・メリクとともに10歳にして旅に出ていた。

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