陽が出ている日は、草原は眩しいだけだった。眼を見開いていると、雪眼というものになる。暗がりに入った時、闇の中のようになってしまうのだ。
チンギスは、遠駈けでは、薄い絹を頭から被った。それで、雪の照り返しはいくらか弱くなる。ソルタホーンが考え出したことだった。
ジャムカが、雪が好きだった。それをよく思い出した。雪の中で、黒貂の帽子が、実に鮮やかな艶を見せたものだ。
草原に降る雪は、大地のすべてを覆うことは少なかった。風のせいなのか、吹き溜って深いところもあれば、枯れた色の草が剝き出しているところもあった。
雪中の野営に入った。
麾下の兵たちは、雪洞などを作っているようだが、チンギスは幕舎で、寝台があって、炭火なども入れられている。
そういうものを受け入れるという条件で、野営もやる遠駈けを認められる。好きなことだけをやる立場からは、かなり離れている。
ブハラ近郊の、周囲の者たちが宮殿と呼ぶ建物も、部屋は暖かく快適だった。
「先日の巻狩の鹿肉が、いい具合になっております、殿」
ソルタホーンが、そばに来て言った。
「干して、硬くなってはいますが、じっくりと焼くと、うまいのではないかと思います」
「それは、おまえの好きな食い方だな、ソルタホーン」
オトラルの森の周辺の原野で、巻狩をやった。それほど獲物が期待できる場所ではなかったが、猪や鹿は手に入った。その獲物が、いい具合に熟れている、ということだ。
「よし、焼くぞ。麾下にも、そうさせろ」
「シギ・クトクを呼んでありますが」
「麾下から隊長が離れるのか、ソルタホーン」
「離れるのではなく、こちらもシギ・クトクの指揮下に入るのです」
「俺もか」
「すべては殿のためです。殿が誰かの指揮下に入ることは、あり得ません。警固下に入ることは、あるかもしれませんが」
シギ・クトクには、アウラガのジェルメの後任を命じてあった。雪が消える前に、アウラガにむかい、一年半か二年、ジェルメとともに総帥の任に当たる。戦場にいるより、その方がむいている、とかなり前に判断した。
西部の実戦部隊の総帥はスブタイで、本営はエミルに置く。東部は、ジェベを起用するが、それはまだチンギスの頭の中にあることだった。
ジョチを除く息子たちは、それぞれの領地へ帰る。領地の経営を、モンゴル国の一部としてできるかどうかを、ボオルチュが見ることになっている。
(『チンギス紀 十七 天地』「冬に見る夢 三」より一部掲載)