チンギス紀 九 日輪
チンギス紀 九 日輪

チンギス紀 九 日輪

著者:北方 謙三

2020年11月26日発売

モンゴル族を統一し、ナイマン王国に攻め込んだテムジンは、敵軍に紛れていたかつての盟友ジャムカが眼前に迫るのを目撃する。とっさに吹毛剣を抜いたが、ジャムカのすさまじい斬撃に落馬した……。好評第9巻。

ISBN:978-4-08-771737-2

定価:1,760円(10%税込)

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内容紹介

モンゴル族を統一し、さらにケレイト王国を滅ぼしたテムジンは、弟のカサル、テムゲ、長男ジョチらに出動を命じ、タヤン・カンが統べるナイマン王国との戦いを進める。そのナイマン王国の大軍の中に、ジャムカの1500騎が、ホーロイ、サーラルとともに潜んでいた。崩れたナイマン軍を見届けて馬首を回したテムジンは、眼前にあるはずのない旗を見る。ジャムカ。とっさに吹毛剣を抜いたテムジンだが、すさまじい斬撃を受けて落馬する……。

プロフィール

  • 北方 謙三

    北方 謙三 (きたかた・けんぞう)

    1947年佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部卒業。81年『弔鐘はるかなり』で単行本デビュー。83年『眠りなき夜』で第4回吉川英治文学新人賞、85年『渇きの街』で第38回日本推理作家協会賞長編部門、91年『破軍の星』で第4回柴田錬三郎賞を受賞。2004年『楊家将』で第38回吉川英治文学賞、05年『水滸伝』(全19巻)で第9回司馬遼太郎賞、07年『独り群せず』で第1回舟橋聖一文学賞、10年に第13回日本ミステリー文学大賞、11年『楊令伝』(全15巻)で第65回毎日出版文化賞特別賞を受賞。13年に紫綬褒章を受章。16年第64回菊池寛賞を受賞。20年旭日小綬章を受章。『三国志』(全13巻)、『史記 武帝紀』(全7巻)ほか、著書多数。18年5月、新シリーズ「チンギス紀」を刊行開始した。[写真/長濱 治]

    北方謙三「チンギス紀」特設サイト

試し読み

 地を這うようにして、近づいてくる。

 ほとんど気配は発していないし、闇はその姿も吞みこんでいるように思えた。

 それでも人は息をするし、姿を完全に消すこともできない。

 テムゲは、胸から腹のあたりまで、地に埋めるようにして、草原に伏せていた。草は、硬い茎だけを、地表にちょっと出している。あとは、羊が食い尽したのだ。

 戦のぶつかり合いを避けて、遊牧民は遠くにいるように見えるが、実は敵の十里以内には、食えそうな動物など一匹もいないのだ。

 戦場が動き、敵の位置が変っても、同じことだ。

 七万の軍の陣というのは、いまのテムゲの感覚から言うと、とてつもなく広い。ほとんど限りがない、と思えるほどだ。その陣の外側に、大きく囲むように位置しようというのは、正気の沙汰ではなかった。

 しかし、テムゲはそれを命じた。

 ジョチは、啞然としていた。四千騎を率いる戦が、食われて短くなった草になるような、それこそ想像もできないことだったのだろう。

 それでも、不平は吐かなかった。軍は命令がすべてであるということは、ジョチが幼いころからその身に叩きこんできた。兵は知らず、将軍や上級将校という連中は、テムジンの長男だからと、手を緩める者などいなかった。むしろ、テムジンの長男であるというだけで、同じ歳ごろの者たちより、ずっとつらい思いをしてきたはずだ。

 それが土にまみれ、岩に張りつき、二日も三日も動かない、というような闘いだったのだ。

 ひと月ほど経つと、ジョチの表情は明らかに最初と違ってきた。頰が削げ、眼が飛び出したように見える、というだけではなかった。荒涼とした心が、表情に出てきてしまっているのかもしれない。

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前巻までのあらすじ

モンゴル族キャト氏の長イェスゲイの長男であるテムジンは、10歳のときにタタル族の襲撃で父を喪った。同じモンゴル族でタイチウト氏のトドエン・ギルテが、テムジンの異母弟ベクテルを抱き込もうとしたため、テムジンはベクテルを討って13歳で南へと放浪の旅に出る。テムジンは、のちに優秀な部下となるボオルチュと出会い、金国の大同府で書肆と妓楼を営む蕭源基のもとで正体を隠して働いた。その時期に「史記本紀」を読んだことが、テムジンに深い影響を与えた。一方、モンゴル族ジャンダラン氏の血気盛んなジャムカは、テムジンと同齢であり、トクトア率いるメルキト族と対峙していた。さまざまな経験を積んで草原に戻ったテムジンは、ジャムカと出会い、お互いを認めて友となる。そんな折、草原に精鋭の50騎を率い、最強ともいえる老年の男が現れる。玄翁と呼ばれ、岩山に住んで傭兵のように雇われる男だった。テムジンは、ケレイト王国のトオリル・カンと表面上の同盟を組み、モンゴル族タイチウト氏のタルグダイらに対抗する。ある戦いでタルグダイ側に雇われて戦った玄翁は、テムジンとの一騎討ちの過程で命を落とすが、テムジンに衝撃的な事実を告げ、吹毛剣を与えた。テムジンは金国とケレイト王国とともに、タタル族との戦いに挑み、父の仇敵を壊滅する。テムジンとトオリル・カンは金国の側に立ったが、ジャムカは金国が草原に干渉することを嫌い、その出兵要請にも動かず、反金国の立場を貫いた。ついにジャムカはテムジンと袂を分かち、テムジンに対抗しようとするタルグダイ、トクトアからメルキト族の長を引き継いだアインガと組んだ。草原が、ケレイト王国とテムジン、ジャムカたち三者連合の、二大勢力に分断されることとなる。そして草原の行く末を決める一大決戦が起き、激闘のすえにテムジンたちが勝利し、ジャムカ、タルグダイ、アインガはそれぞれに逃れた。ジャムカは北のバルグト族のもとに密かに身を寄せ、アインガはメルキト族の領地に戻り、タルグダイは南へと向かう。敗れたジャムカの息子マルガーシは、事件で母を失い流浪することとなる。ケレイト王国のトオリル・カンが、味方であるはずのテムジンを騙し討たんとするが、異変を察したテムジンは逆にケレイト王国を滅ぼした。トオリル・カンの末弟で禁軍を率いていたジャカ・ガンボは逃される。草原に大きな対抗勢力がいなくなり、モンゴル族統一を果たしたテムジンは、西方のナイマン王国との戦を進めようとしていた。一方、ジャムカは再起を期し、テムジンの首を狙い続けていた。

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