内容紹介
結婚制度の不自由さ、無痛分娩のありがたみ、ゾンビと化した産後、妊娠線というタトゥー、ワンオペ育児の恐怖、ベビーカーに対する風当たりの強さ……。
子育て中に絶え間なく押しよせる無数の「うわーっ」を一つずつ掬いあげて言葉にする、この時代の新バイブル!
【目次】
1章 「妊婦」になる
2章 「無痛分娩でお願いします」
3章 「つわり」というわけのわからないもの
4章 「理想の母親像」とゾンビたち
5章 「妊娠線」は妊娠中にいれたタトゥー
6章 「母乳」、「液体ミルク」、「マザーズバッグ」
7章 「ワンオペ」がこわい
8章 「うるさくないね、かわいいね」
9章 「ベビーカーどうですかねえ」
10章 「名前」を付ける
11章 「電車」と「料理」、どっちも好き
12章 「保護する者でございます」
プロフィール
-
松田 青子 (まつだ・あおこ)
2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞及び野間文芸新人賞候補に。19年、短編「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞短編部門の候補となる。2021年、『おばちゃんたちのいるところ』が、BBC、ガーディアン、NYタイムズ、ニューヨーカーなどで絶賛され、TIME誌の2020年の小説ベスト10に選出。LAタイムス主催のレイ•ブラッドベリ賞の候補になったほか、ファイアークラッカー賞、世界幻想文学大賞を受賞。他の著書に『持続可能な魂の利用』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』、エッセイに『自分で名付ける』など。最新の訳書にカレン・ラッセル『オレンジ色の世界』がある。
『自分で名付ける』 松田青子
第1章 「妊婦」になる
結婚しないまま、二〇一九年に子どもを産んだ。
私は、日本では、結婚すると女性の名字が変わるのが常々納得いかなかった。制度上はどちらの名字を取ってもいいと言われているものの、現状名字を変えているのは九割以上が女性側であるらしい。九割以上て。ほとんど全員じゃんか。そんな状態では、選択する権利はないに等しい。
妊娠中の情報収集に、よくSNSの育児アカウント(この世で最も尊いものの一つ)を徘徊していたのだが、ある時インスタグラムの育児アカウントで女性たちが、子どもの名付けについて話しているのを目にした。
女の子は結婚したら名字が変わるから、姓名判断で字画を気にしても仕方ないね、そうだよねというやりとりで、きっと彼女たち自身も、名字が変わることを受け入れた(受け入れるしかなかった)のだろうと察せられた。この連鎖はどこまで続くのだろうと考えると、悲しくなる。もちろん名字を変えたい女性を否定するつもりは微塵もない。私が大切だと思うのは、各々の生き方に合った選択をするのが、当たり前になることだ。
この社会は、結婚すると女性側がそれまでの名前の半分を失うのを当たり前のことにしてきた。パスワードを忘れた時の「秘密の質問」に、「母親の旧姓は?」という項目が疑問をもたれずにいつまでも設定されていることだけでも、それがわかる。
新着コンテンツ
-
インタビュー・対談2024年04月20日インタビュー・対談2024年04月20日
青羽 悠「大学生活を送りながら書いた、 リアルタイムな京都、大学、青春小説」
一人の青年の大学四年間を描いた青春小説。大学生活とは? 大人になることとは?
-
お知らせ2024年04月17日お知らせ2024年04月17日
小説すばる5月号、好評発売中です!
注目は赤神諒さんと宇佐美まことさんの2大新連載! 本多孝好さん初の警察小説の短期集中連載も必読。
-
連載2024年04月15日連載2024年04月15日
【ネガティブ読書案内】
第29回 インベカヲリ★さん
「常識に汚染されそうになった時」
-
お知らせ2024年04月10日お知らせ2024年04月10日
『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』が2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位を受賞!
『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(ファン・ボルム 著 牧野美加 訳)が2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位に決定しました!
-
お知らせ2024年04月06日お知らせ2024年04月06日
すばる5月号、好評発売中です!
注目は松田青子さんの新連載と山内マリコさんの連作小説! キム・ソヨンさん×文月悠光さん、桜庭一樹さん×かが屋のお二人の対談も必読!
-
新刊案内2024年04月05日新刊案内2024年04月05日
22歳の扉
青羽悠
小説すばる新人賞、史上最年少受賞から8年! 二十代前半の「不変」と「今」が詰まった圧倒的青春小説!