自分で名付ける
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自分で名付ける

自分で名付ける

著者:松田 青子

定価:1,760円(10%税込)

内容紹介

結婚制度の不自由さ、無痛分娩のありがたみ、ゾンビと化した産後、妊娠線というタトゥー、ワンオペ育児の恐怖、ベビーカーに対する風当たりの強さ……。
子育て中に絶え間なく押しよせる無数の「うわーっ」を一つずつ掬いあげて言葉にする、この時代の新バイブル!

【目次】
1章 「妊婦」になる
2章 「無痛分娩でお願いします」
3章 「つわり」というわけのわからないもの
4章 「理想の母親像」とゾンビたち
5章 「妊娠線」は妊娠中にいれたタトゥー
6章 「母乳」、「液体ミルク」、「マザーズバッグ」
7章 「ワンオペ」がこわい
8章 「うるさくないね、かわいいね」
9章 「ベビーカーどうですかねえ」
10章 「名前」を付ける
11章 「電車」と「料理」、どっちも好き
12章 「保護する者でございます」

プロフィール

  • 松田 青子 (まつだ・あおこ)

    2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞及び野間文芸新人賞候補に。19年、短編「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞短編部門の候補となる。2021年、『おばちゃんたちのいるところ』が、BBC、ガーディアン、NYタイムズ、ニューヨーカーなどで絶賛され、TIME誌の2020年の小説ベスト10に選出。LAタイムス主催のレイ•ブラッドベリ賞の候補になったほか、ファイアークラッカー賞、世界幻想文学大賞を受賞。他の著書に『持続可能な魂の利用』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』、エッセイに『自分で名付ける』など。最新の訳書にカレン・ラッセル『オレンジ色の世界』がある。

『自分で名付ける』 松田青子

第1章 「妊婦」になる

結婚しないまま、二〇一九年に子どもを産んだ。

私は、日本では、結婚すると女性の名字が変わるのが常々納得いかなかった。制度上はどちらの名字を取ってもいいと言われているものの、現状名字を変えているのは九割以上が女性側であるらしい。九割以上て。ほとんど全員じゃんか。そんな状態では、選択する権利はないに等しい。

妊娠中の情報収集に、よくSNSの育児アカウント(この世で最も尊いものの一つ)を徘徊していたのだが、ある時インスタグラムの育児アカウントで女性たちが、子どもの名付けについて話しているのを目にした。

女の子は結婚したら名字が変わるから、姓名判断で字画を気にしても仕方ないね、そうだよねというやりとりで、きっと彼女たち自身も、名字が変わることを受け入れた(受け入れるしかなかった)のだろうと察せられた。この連鎖はどこまで続くのだろうと考えると、悲しくなる。もちろん名字を変えたい女性を否定するつもりは微塵もない。私が大切だと思うのは、各々の生き方に合った選択をするのが、当たり前になることだ。

 この社会は、結婚すると女性側がそれまでの名前の半分を失うのを当たり前のことにしてきた。パスワードを忘れた時の「秘密の質問」に、「母親の旧姓は?」という項目が疑問をもたれずにいつまでも設定されていることだけでも、それがわかる。

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