累々
ヘッドライン

累々

著者:松井 玲奈

2021年01月26日発売

デビュー作『カモフラージュ』を超える衝撃。
待望の最新小説発売。

本当の私は誰。
結婚、セフレ、パパ活、トラウマ……。不穏さで繋がる全5編。
たくらみに満ちた、著者の新境地。

※下記価格は予価となります。

ISBN:978-4-08-771735-8

定価:本体1,400円+税

SHARE

内容紹介

松井玲奈さんの小説第2作が、2021年1月26日(火)に発売となります。大きな話題となったデビュー作『カモフラージュ』の
衝撃を超える、著者の新境地といえる意欲作。人間の多面性を切り取る、たくらみに満ちた自身初の連作短編集です。
今作は、日本での発売と同時に、台湾の出版社・尖端出版より、中国語繁体字版が発売されることが決定しています。

※『累々』刊行記念オンライン書店イベント開催予定。
詳細は後日、本WEBサイトにて告知します。

プロフィール

  • 松井 玲奈 (まつい・れな)

    1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。
    著書に『カモフラージュ』。

試し読み

『累々』一編まるごと公開中!

1 小夜

 「今年中に籍を入れたいと思う」
 そう告げられたのは夕飯の席だった。
 告白された時とは違う味気ないプロポーズだった。今日は仕事を入れていなかったので、色あせた黄色の部屋着を身につけ、髪の毛は適当にひとまとめにしていた。どうしてリップクリームすら塗っていないスッピンの顔に向かって、こんなに大切なことを今言うのだろうと正直感じてしまった。
 だからといって彼が惰性で結婚をしようとしているとは思わない。する、しない、の話ではないのだろう。彼の中では。
 私との付き合いが遊びではないことは最初からわかっていた。決まり文句みたいに、結婚を前提に付き合って欲しいと言った時の、彼らしからぬ不安に揺れる視線を今でもはっきりと覚えている。今の彼は私と人生を共にすることに迷いがない。目の前に並んだ食事の味付けのように、全てがお互いにとって調っていると思っている。
「籍を入れるにしても準備する時間が必要だと思うから」
「準備?」
「小夜のご両親にも挨拶に行きたいし、僕の周りにもちゃんと話して順序よく行きたいんだ」
 今日は休みだから僕が作る、と意気込んでキッチンに立っていたのはこういうことか。食卓には私の好物がずらりと並んでいた。椎茸と葱のグリル、青椒肉絲にかきたまのスープ。ふんわりとしたドレスのような卵がお椀の中でひらりと躍り、米が蛍光灯に照らされてその白さと艶が際立っている。
「今年中ね……」と私は言葉を濁した。
 考えるフリをして青椒肉絲に箸を伸ばす。味付けは濃くも薄くもなく、丁度よかった。
 葉さんは今年で三十になる。彼の年齢と半同棲を続けている状況から考えても、次のステップに進むには悪くないタイミングなのはわかるけれど。
 開け放った窓から、闇に溶けていくような犬の遠吠えが聞こえ、湿気まじりの濃い緑の匂いがした。今年が終わるまではあと半年ある。

もっと読む

著者からの直筆メッセージ