
内容紹介
出版PRとしてニューヨークでキャリアを積み、現在は会社を辞めて小説家志望となったアリス。彼女はこの引越しに不満だった。夫に伴い渋々決めた郊外の古い屋敷は、相当な手入れが必要な物件だったのだ。
夫は優しく堅実な職についているが、どうやらアリスに家庭に入ってほしいと思っている様子も気にかかる。
いざ屋敷を掃除すると、古い料理本や1950年代の雑誌など、ここで亡くなったという前の女主人ネリーの暮らしていた痕跡が見つかった。
庭と植物を愛する、良妻の鑑であったはずのネリーだが、実はどうやら深い秘密がありそうで…。
70年の時を超え、アリスがネリーから受け継いだものとは?
ニューヨーク郊外の屋敷を舞台に、時代を超えたシスターフッドを描く。
北米ベストセラー・エンタテインメント小説!
プロフィール
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カーマ・ブラウン (Karma Brown)
カナダのオンタリオ州生まれ。ジャーナリスト、作家。ウエスタン・オンタリオ大学で心理学と英語を専攻し、その後ビジネスコンサルティング会社のマーケティング部門で働きながら、ライアソン大学大学院でジャーナリズムを学ぶ。
のちに小説やノンフィクションを執筆するようになる。『良妻の掟』は小説5作目にあたる。
現在はトロント郊外で夫、娘、犬と暮らしている。 -
加藤洋子 (かとう・ようこ)
文芸翻訳家。ハンナ・ケント『凍える墓』、デレク・B・ミラー『白夜の爺スナイパー』『砂漠の空から冷凍チキン』(以上集英社文庫)、クリスティン・ハナ『ナイチンゲール(上・下)』(小学館文庫)、ケイト・クイン『戦場のアリス』『亡国のハントレス』『ローズ・コード』(以上ハーパーBOOKS)など訳書多数。
書評
良妻賢母という呪い
♪akira
なんで女性だけが”良い妻”で”賢い母”になるよう求められるんだろう。”良妻賢母”という言葉にカチンとくる人、逆になぜカチンとくる人がいるのかわからないという人、その両方に『良妻の掟』を全力で薦めたい。
マンハッタンで広報担当としてバリバリ働いていたアリスは、退職し夫婦で郊外の一軒家に越してくる。夫ネイトは堅実な人生プランに邁進しており、都会の狭い賃貸アパートを捨て、子どもを持って幸せな家庭を作る意欲満々だ。
築七十年の新居は全面的に修理が必要だが、経済的な理由により業者を頼めず、作家志望で在宅のアリスほぼ一人でやらざるを得ない。一方ネイトは「自分が外で稼ぐ」「養ってあげる」と、名実ともに”主人”となったことにご満悦だ。以前ならそんな態度にアリスもむっとしたはずだが、実は彼女は辞職について隠し事があり、辞めたせいで夫一人の収入に頼ることに負い目を感じていたのだ。そんなある日、アリスは地下室で一冊の古い料理本を見つける。どうやらこの屋敷の前の住民で専業主婦だった、ネリーに関連するものらしい。興味を持ったアリスは、隣人サリーの手を借りてネリーの生涯を調べ始める。
本書を読んで思い出したのがリチャード・イエーツの『レボリューショナリー・ロード―燃え尽きるまで』だ。ネリーとほぼ同時代、戦後の好景気を迎えたアメリカで若い夫婦が退屈な日常から理想の人生を望んだ結果、予想もしない悲劇へと突き進む。同名映画の方はレオナルド・ディカプリオ演じる夫がややソフトに脚色されていたが、男性優位社会での妻への無理解、無自覚なモラハラなど普遍的な問題を痛烈に描いている。
浮かび上がるネリーの人生は時を超えてアリスの生き方に影響を及ぼし、ネリーが残した手紙は衝撃の真相を突きつける。過去と現代がどんな結末を迎えるか見届けてほしい。なおネリーの章冒頭に引用される当時の良妻賢母指南書の文言の地獄みが只事ではない。くれぐれも心して読むべし。
あきら●書評家・映画ライター
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