担当編集のテマエミソ新刊案内

83歳、ケアハウス暮らし。まだまだ死んでる場合じゃない！
安楽死もある高福祉国家の裏側をシルバージョークで皮肉る、オランダ発の大ベストセラー

“笑っていいのか正直よくわからない”——とは、「ピンピンコロリ」などの老人の自虐ギャグ。死、病気、戦争、壮絶な体験を笑いに持っていくたくましさ……本書は、そうしたシルバージョークが満載の日記調小説です。

　アムステルダムのケアハウスに暮らす、83歳のヘンドリック。毎月施設の誰かが亡くなり、自身も窓辺でのんびり死を待つような日々。そんな生活と自分を変えようと、彼は日記を書き始めます（ちなみにこの日記は、自分の葬式で、友人に読み上げてもらう予定です）。さらに彼は、仲間とともに〈年寄だがまだ死んでないクラブ〉を結成。カジノ、料理教室、電動カートでのツーリングなど、非日常の楽しみを甘受する高齢者たちですが、厳しい施設長や寄る年波が彼らの前に立ちはだかり……。

　安楽死を制度として公的に認めている高福祉国家オランダ、その当事者である老人たちは、どんな思いで日々を過ごしているのでしょうか？　チャーミングな老人たちの恋や友情、喜びと悲しみの毎日を、ブラックユーモアを織り交ぜつつ、介護される側から描いた本書は本国オランダで32万部の大ヒット。テレビドラマ化も果たしました。

　長年蓄積されてきた人生に裏付けされた渾身のジョークは、一朝一夕のものではありません。小説の強みは冗談を言った本人がすぐそばにいないことですので、本書でも気にせず存分に笑っていただければと思います。日々を楽しむことこそ、人生を豊かにするポイントなのですから。

（担当Ｋ．Ｓ）

著者からのメッセージ

　親愛なる日本の読者の皆さんへ

　アムステルダムの北地区と日本の東京都は約9283キロ離れています。文化も9283キロ分、異なっているのかもしれません。ほんとうにそうなのかは、残念ながら日本のことをほとんど知らない年老いたアムステルダム市民の私にはわかりませんが。でも、国や文化の差が大きければ大きいほど、互いに学びあえる、ということは私にもわかります。少なくとも理論上はそうです。瓜二つの人間どうしが互いを高めあうことはあまりないでしょう。
　それゆえ私は、オランダの老人ホームでの私の体験が日本でどのように受け止められるのか、非常に深い興味を抱いています。ぜひ皆さんからの感想を聞かせていただきたいです。日本の〈ヘンドリック・フルーン〉はどのように老後を過ごしているのか、日本にも嫌な施設長がいたり、独創的な〈オマニドクラブ〉が存在したりするのか（〈オマニド〉という言葉は少し日本語的に聞こえますね）。
　なんといっても私の座右の銘は〈老いてなお好奇心の塊〉なのですから。
　日本の読者の皆さんが驚くだけでなく、楽しんだり感動したりもしてくれることを願っています。

心をこめて、ヘンドリック・フルーンより