年齢差のある女性二人のルームシェアを描く青山七恵さんの小説「記念日」、俳人・小津夜景さんの詩歌・言葉をめぐるコラム「空耳放浪記」と注目の新連載がスタート! 混沌とした世界を生き抜くため、新たな価値観を見つけるための大特集、「2023年の幸福論」。「幸せ」について考える小説、対談、論考、エッセイはすべて必読です!

【新連載】
青山七恵「記念日」
ルームシェア先に引っ越して、ひと月近く。家主のミナイから細かな「生活ルール」を課され、四十二歳のソメヤは神経の張り詰める生活に参っていた。そんな折、年の離れたミナイから思わぬ提案が示される――。

【コラム新連載】小津夜景「空耳放浪記」
ニースに暮らす俳人・小津夜景氏が見つけた古今東西の詩歌・言葉についての連載が、お引っ越し&リニューアルして始まります。第一回は「狂歌の面白さ」。江戸時代の狂歌からナイス害氏の現代短歌まで、狂歌との歩みを綴ります。

【小説】井上荒野「みみず」
休日はマッチングアプリで知り合った男と会うことを繰り返している実家暮らしの「私」。月曜になると「こばと保育園」の「杏先生」になって園児たちを迎える「私」のもとに、やがて、俊樹さんがやってくる。もちろん、娘の歌ちゃんを連れて――。

【小説】岩城けい「Ms エムズ(2)」
親友・ジェイクの結婚式でアビーと出会った真人は、人形の制作者として劇団を手伝う彼女に誘われ、練習に顔を出すように。オーストラリア生まれのアルメニア人であるアビーとは、「よそ者」同士通じ合う部分もある一方、衝突する場面も生じて……。

【特集:2023年の幸福論】

疫病、戦争、自然災害、混沌とした世界情勢の中、わたしたちは自らを支えるものを本の中、先人たちの言葉や物語の中に探す。富、名声? 健康、安全? 手垢のついた幸福のかたちを乗り越え、多様な価値観をみとめあう、新たな時代の幸福論。

特別エッセイ/若松英輔「幸福の原点」
これまでたくさんの「幸福論」と題される書物が生まれてきたが、幸福を定義し、短く言い切る言葉には出会ったことがないという。古代ギリシアの言葉「ダイモーン」を糸口に、「幸福」を考える特集のスタートを飾る。

対談/若松英輔×半﨑美子「「幸せな」時代に、幸福と出会うため」
わたしたちは比較的「幸せな」時代に生きている? 他人と距離を離され、自己責任を強く求められる現代、改めて幸福とは何かを考える。

小説/山田詠美「MISS YOU(ミス ユー)」
大好きなニューヨークに長期滞在を目論んだ私はブロンクスにある、女友達の夫グレゴリーの実家に泊まらせてもらうことにした。両親、兄、妹、犬の「ミスユー」の住むその家は、懐かしさと奇妙な雰囲気に満ちていた。

小説/藤野可織「鳥たち」
土佐さんが外出先で見かけた鳥の写真が、職場の皆の想像を掻き立てる。おそらく川鵜だろうと「私」が検索した画像を見せると、「うちの子くらいある」と言った梅澤さん。最近マンションを買った彼女はある「夢」について語る――。

小説/小山田浩子「ものごころごろ」
宏とエイジは怪我した犬を保護し、ハツと名付けた。6年生になってから毎日塾に通う宏と、受験とは無縁のエイジ。エイジは毎日ハツに会いたくて一緒に下校するが――分岐していく少年たちの進む道、その先にあるのは……?

小説/石井遊佳「網ダナの上に」
網ダナの上に、「わたし」は、いる。列車の中でくらしている。十年ぐらい経った気がする。「わたし」はそうして、いつも一人の女性を見下ろしているのだ――輪廻転生の世をさまよう魂が行きついた、「生」の意味とは?

小説/高瀬隼子「末永い幸せ」
「結婚することになりました」。いつものように集まった地元の居酒屋で、りっちゃんが小さく手を挙げ報告した。仙子と共に驚きと祝福の声をあげる「わたし」の内では、結婚式に対して抱き続けてきた違和感が頭をもたげ……。

論考/亀山郁夫「冷たくあれ、熱くあれ」
コロナ禍、侵攻、飢餓、異常気象という幾重もの災害にうちひしがれる現代における、人間の幸福とは。ウクライナ侵攻とプーチン、「ボリス・ゴドゥノフ」、ドストエフスキー作品を論じながら、人間の深淵に迫る。

論考/山本貴光「幸せはどこからどこへ向かうのか」
カート・ヴォネガットが講演で描いた“味わいある”「シンデレラ」の幸運・不運曲線。時間が横軸のこのグラフから考えた「幸せ」とそこから零れ落ちるものを、いわゆる三大幸福論などを読みながら考える。

論考/清水晶子「許容されない幸福へと跳躍するあなたと共に拳を握って」

幸福はフェミニストやクィアにとって信頼できる概念ではない。社会規範的な生き方を強要されるからだ。音楽、映画作品を通して考える、女性が「キルジョイ(興を殺ぐもの)」として生きること。

論考/奥山裕介「ヒュゲを真面目に考える 『幸福の国』への問いから始めるデンマーク文学」
近年メディアで紹介されることも多い、北欧デンマークの「ヒュゲ」。その成り立ちと変遷をデンマーク文学から注意深く読み解く。

エッセイ/岸政彦「生きている、としかいえない」・砂川文次「幸福の門」・安達茉莉子「君は本当におめでたいやつ、おめでとう、本当に。」・川野芽生「さようなら、〈幸福〉」・永井玲衣「穴だらけの幸福」

【第47回すばる文学賞】
みずみずしく意欲的な力作・秀作をお待ちしています。募集要項は http://subaru.shueisha.co.jp/bungakusho/  をご覧ください!

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