2023年度 集英社出版四賞 贈賞式 選考委員講評と受賞者の言葉
2023年12月12日更新

2023年11月17日、本年度集英社出版四賞の贈賞式が執り行われました。
個性煌めく受賞者と受賞作に会場は大いに沸き、終始賑やかな式典となりました。各賞の選考委員による講評と、それを受けての受賞者の挨拶を、一部抜粋してお届けいたします。
第36回 柴田錬三郎賞
受賞作 池井戸潤さん『ハヤブサ消防団』集英社刊
選考委員代表 逢坂剛さん
講評 逢坂剛さん
冒頭で「柴田錬三郎という作家はもう文学史の中に入ってしまった感があるが、私が中学生高校生の頃、夢中になって読んだ思い出がある。その名前を冠した賞らしく、ページターナーとも言うべき、次から次へと展開してやめられない面白さを持った作品こそ相応しいと思っていた」と選考にあたっての思いを述べられたあと、「江戸川乱歩賞でデビューなさってからずっとページターナーであり続けられた。これを励みにますます実力を発揮し、書き続けていただきたい」と大きな賛辞を贈られました。
受賞者の言葉 池井戸潤さん

舞台も展開もこれまでの作品とは趣を異にする今回の受賞作。「実家のある限界集落には小さな祠と鳥居があり、過去半世紀の間にその鳥居の前の民家が4~5軒も火事にあっていると父親に聞いたことがきっかけ」と執筆の経緯を明かされました。「これ以外の、近過去に起きた事などについて、私の同世代の仲間に聞くとほとんどが知らなかった。伝承というものはその気がないとすぐ消えてしまう、という思いが危機感としてあり、いつかどこかで書かなければと思っていた」と長年の着想が結実したことへの感慨、そして続編への意欲を述べて謝辞を締め括られました。
第47回 すばる文学賞
受賞作 大田ステファニー歓人さん『みどりいせき』
選考委員代表 金原ひとみさん
講評 金原ひとみさん
奇しくも20年前にご自身が受賞者として登壇した舞台に選考委員として立ち、新たな才能を称えられた金原さん。「選考会は揉めることもなくスムーズに決まりました」と笑顔で振り返りつつ、「はちゃめちゃな話ではあるが、かけがえのない体験が積み重ねられている」と全体を評し、「特徴的な文体で書かれていて、最後まで読めるかな? と心配になったりもしたが、ひとたびそのバイブスに合えば止まらない。非常にチャレンジングなことを成している」と作品の魅力を語られました。
受賞の言葉 大田ステファニー歓人さん

大田さんは受賞の喜びを詩に認め、周囲への感謝や今後の展望とともに、今感じている率直な思いを述べられました。家族、仕事、執筆から社会や世界への不安や不満、そしてデビュー作のプロモーションまで滑らかなリリックに織り込み場の空気を和ませながらも、「消すことになった二作目五〇枚半 とにかくなりたくない恥知らずの作家」と次回作への苦悩と決意も滲ませ、会場は大きな拍手に包まれました。
第36回 小説すばる新人賞
受賞作 逢崎遊さん「正しき地図の裏側より」(「遡上の魚」改題)
神尾水無子さん「我拶もん」
選考委員代表 朝井リョウさん
講評 朝井リョウさん
朝井さんもまた小説すばる新人賞のご出身であり、本年度から新たに選考委員を務められることとなりました。二作同時受賞となった今回の選考会について「序盤で評価を集めたのは神尾さんの作品のフィクションとしての完成度。地の文、台詞、キャラクター、全てにおいて細やかに気を配っている」とする一方、「その完成度ゆえに既視感があり、新人賞とはどういう作品を世の中に送り出すべきなのか、と議論が移っていった」と長時間に及んだ選考の経緯を振り返りました。「逢崎さんの作品は完成度という意味では及ばないが、主人公の心情を表現するシーンに印象的なものが多く、しかもさりげない。現実を見据える書き手ならではの視点がある」と全く別の長所を説き、現在は6名の委員による決選投票でも同数となり、同時受賞が叶ったことは最良の結果だったのではないかと結ばれました。
受賞の言葉 逢崎遊さん

6年前、18歳のときに初めて小説すばる新人賞に応募し、最終選考まで進んでいた逢崎さん。「翌年以降も応募を続けたが、一次選考にすら通らない年が続いた。今回受賞にたどり着けたのは、ひとえに読者を得られたからだと思う」と、身近な読者に感想をもらうことの大切さを噛み締めました。そして「6年前の小説すばるに掲載された選評に、北方謙三先生が『私は待っている』と書いてくださった。お待たせいたしました! この言葉をこの舞台で口にするのが一つの目標でした」と晴れやかな笑顔で今後も執筆活動に邁進することを誓われました。
受賞の言葉 神尾水無子さん

最終選考会が行われた日のことを「受賞の知らせを受けて頭が真っ白になり、とんでもないことになったと思った。友人や知人にメールを打つ手が震えてもどかしかったことを覚えている。間違いなく人生で一番長い日だった」と思い返しつつ、「支持していただいた点も、そうでなかった点も、まだまだ未熟な作品だと痛感した。本を手に取っていただく読者からも嬉しい感想だけが届くわけではないことも覚悟している。でもどんな感想でもありがたく受け止め精進したい」と作家としてのスタートに目を輝かせておられました。
第21回 開高健ノンフィクション賞
受賞作 青島顕さん『MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』
選考委員代表 加藤陽子さん
講評 加藤陽子さん
本年も各選考委員の多様な着眼点からなる選評を一つ一つ挙げられた後、「驚くことを忘れた心は窓のない部屋に似ていはしまいか」という開高健の『オーパ!』の一節を引用し、「ロシア語の放送局で、嫌われた国で働こうとする日本人がいることの異質さ。そこに驚いた」と着想の秀逸さにまず言及し、「『体制が違うその国に行けば、自分らしく生きられる。もしかしたら、日本をよりよく変えることができるかもしれない』というプロローグの加筆に、青島さんご自身もそのように希望を持っておられるのではないかと思った。そのことに大きな敬意を表したい」と今後益々のご活躍に大きな期待を寄せられました。
受賞の言葉 青島顕さん

昨年の受賞者・佐賀旭さんが本賞史上最年少だったことに触れ、「一気に年齢を倍くらいに増やしてしまった」とはにかみながらも、新聞社での長年の記者経験こそが執筆の礎となった。「高校時代にたまたまモスクワ放送を耳にして以来、ずっと疑問を抱いていた。昨年ロシアがウクライナに侵攻したが、ちょうどモスクワ放送も周年を迎えて出身者の方々が集まる機会があり、取材に伺うことができた」と改めて書籍刊行までの長い道のりを明かされました。「だがこの稀有な体験をどんな文体で書いたらいいか。選考委員の先生方から構成に難があると率直にご指摘いただいたが、20年以上記者をやってきてこんな苦境は初めてだった」と振り返りながらも、「まだ調べなおして書きたいもの、記者として書かなければならないものがある」とさらなる執筆意欲を燃やしておられました。
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