恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第8回:自分に運が向いていないと感じた時
案内人 多井隆晴さん
2022年04月15日
麻雀プロとして麻雀を打ち、取材を受け、YouTubeチャンネルの配信を行い、忙しくお仕事をさせてもらっていますが、決して私も順風満帆ではありません。麻雀は運が勝敗を左右することもある競技なので、自分に運が向いていないと感じることや、仕事ではうまくいかず落ち込んでしまうことも多々あります。
昔から読書は好きで、活字も漫画も、たくさんの作品にふれてきました。基本的に自分が「イケてるな!」と好調を感じているときは、成功者のビジネス本や流行の本を読み、さらにテンションを上げます。逆に不調時にそれらの本を選んでしまうと「なんて自分はダメなんだ」とネガティブになってしまうため、あえて避けます。
そして、不調を感じているときに読みたいものがふたつあって、ひとつは東野圭吾さんの『白夜行』です。
これは昔から大好きな作品ですね。誰かのために尽くし、その結果堕ちていく人の生きざまを非常にうまく描いた作品で、悲しいストーリーです。これを読んでいると「自分のために頑張るのは当たり前だな」とか、ときには「自分のほうがまだまだ幸せだな」と感じます。主人公はとても運のない、報われない人間なのですが、その生きざまを見ることで、今の自分の悩みや苦しみはちっぽけなものに感じられるのです。

東野圭吾/著 (集英社文庫)
もうひとつは少し意外に思われるかもしれませんが、ANAの飛行機の中にある機内誌「翼の王国」で連載されている「おべんとうの時間」というエッセイです。連載をまとめたものが単行本になっています。
誰かの人生にスポットを当てて、その人がどんなお弁当を食べているのか紹介するという内容なのですが、わずか2ページ程度、読むのに5分もかからないこの読み物が私はとても好きです。コロナ前は年間20回以上は飛行機に乗り遠征のお仕事をしていましたが、いつもこのエッセイを読むのが楽しみで……! 読むたびに「人の幸せの形は無限にあるんだな」ということがわかり、勇気づけられました。

阿部了/写真 阿部直美/文 (木楽舎)
※2022年4月現在『おべんとうの時間 4』まで刊行
私はいつも、麻雀で勝つためには「自分視点、相手視点、第三者視点」という「3つの視点」を持つことが大事だと考えています。自分だけのモノの見方ではなく、対局者や観戦者から見てどうなんだ、という視点が麻雀には欠かせません。いろんな角度から物事を考え、誰かの立場に立ってその感情や感覚を味わうことができる読書は、この「3つの視点」を養うために大切なものなのかもしれませんね。
プロフィール
-
多井 隆晴 (おおい・たかはる)
麻雀プロ。麻雀プロ団体「RMU」代表、大和証券Mリーグ「渋谷ABEMAS」所属。TVやネット番組にも多数出演。さらに、YouTuberとしても活躍している。
新着コンテンツ
-
インタビュー・対談2025年10月30日
インタビュー・対談2025年10月30日赤神 諒×後藤勝徳(一般社団法人歴史新大陸 代表理事)「史実と創作が紡ぐ、もう一つの幕末物語」
主人公のモデルとなった幕末の武士・瀧善三郎。彼の生涯をめぐり、善三郎の顕彰活動や舞台化に取り組む後藤さんと熱く語りあっていただきました。
-
インタビュー・対談2025年10月27日
インタビュー・対談2025年10月27日『夏鶯』刊行記念インタビュー 赤神諒「希望を失ってなお生きていくための「武士道」」
武士とは何か? 武士道とは何か? 作家であり、環境法・行政法を専門とする法学者でもある赤神さんに『夏鶯』についてお話をうかがいました。
-
新刊案内2025年10月24日
新刊案内2025年10月24日あなたについて知っていること
エリック・シャクール 訳/加藤かおり
あなたは僕を知らない。僕だって、あなたを知らない。喪失と欠落、そして家族の愛を描く珠玉の文芸作品。
-
お知らせ2025年10月24日
お知らせ2025年10月24日弊社刊『青の純度』につきまして
-
インタビュー・対談2025年10月24日
インタビュー・対談2025年10月24日大島真寿美「少女漫画編集部という宇宙、ジグザグした形の星をまるごと描きたかった」
少女漫画誌について書こうと決めてから十年、どんな経緯でこの小説が生まれたかについて、じっくりとうかがいました。
-
インタビュー・対談2025年10月24日
インタビュー・対談2025年10月24日小池真理子「“永遠”を描く心理小説」
運命の不条理に翻弄される三人の男女の心の動きに焦点を当てた、三年ぶりの長編『ウロボロスの環』にこめた思いを伺いました。