
恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第21回:自分が恵まれていないと感じた時
案内人 仲人Tさん
2023年07月15日
私は結婚相談所で働いている。
婚活は自分との戦い……というより、ライバルとの戦いだ。自分より恵まれた人が可視化される。私も婚活経験者なのでよく分かる。
もっと美人に生まれていれば!
もっと親が私を明るく育てていれば!
もっと実家がお金持ちなら!
あの友達は恵まれてるのに、私はどうして!
考えてもどうしようもないことを、ぐるぐる考えてしまう。

この本を書いた岸田奈美さんは、圧倒的に『恵まれていない』部類に入るだろう。父は急逝、母は下半身不随、弟はダウン症。母は「死にたい」と言い、弟は万引きを疑われ、自分は鬱で会社に行けなくなり、次々にトラブルが降りかかる。
しかし、そんな中でも、奈美さんは何とか前を向いて生きている。
失敗ばかりでも、当たり前のことができなくても、生き辛さを抱えていても。
楽しく生きることはできるのだ。楽しく生きないと損なのだ。希望はどこにでもあるのだ。
笑って泣いて救われて「自分も一つ、できることからやろうかな」と思わせてくれる一冊。

短編「おもてなしティー」の主人公みどりさんは43歳。独身だ。
ちゃんと働いて、好きな雑貨を買い、素敵な店で食事し、コンサートにだって出かける。
一人で楽しく生きているはずだけど、たまに寂しくてたまらなくなる。そんなみどりさんの前に差し出された不思議な紅茶。
「心に風がふくときはありませんか? すべてが砂のようにくずれてしまいそうに感じるときはありませんか?」
そのお茶を淹れると、毎回話し相手が現れる。寂しくなるたびにお茶を淹れて、楽しい日々を過ごしていたみどりさんだが、ついに紅茶は最後の一杯になってしまい……。
2022年「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」で
第1位の大人気シリーズ。
恵まれていても、一人はやっぱり寂しい。何もかも持っていても、一人であるだけで「自分は恵まれていない」と感じてしまう人もいる。
でも、寂しいと感じたなら、自分から手を伸ばせばいい!
勇気を出したみどりさんは、ある人物を夕食に誘う。
「自分は恵まれていない」
そう感じる日は誰にでもある。
そんな時、そこでただ立ち尽くすのか、一歩でも前に進むのか。
どちらを選ぶかで、人生は変わってくるのかもしれない。
プロフィール
-
仲人 T (なこうど・てぃー)
「結婚物語。」に勤める既婚のアラフォーオタク仲人で、Amebaトップブロガーの一人。著書に『夢を見続けておわる人、妥協を余儀なくされる人、「最高の相手」を手に入れる人。──“私"がプロポーズされない5つの理由』がある。ブログ人気が高じて、相談所への入会希望が殺到し、受付をストップさせた伝説を持つ。「結婚物語。」は東京・恵比寿と、兵庫県・宝殿にある結婚相談所で、五つの連盟に所属し、IBJ成婚数TOP10、JMN成婚優秀賞、TMS成婚ゴールド賞殿堂入りなど華々しい成績を残す。
新着コンテンツ
-
インタビュー・対談2025年07月08日インタビュー・対談2025年07月08日
桜木柴乃「波風立てずに生きる器用さを、ちょっと残念だなと感じる大人に読んでほしい」
著者五十代の最後を飾る、集大成的な短編集である本作。仕事に対する現在の思いや、短編を書く面白さをうかがいました。
-
お知らせ2025年07月04日お知らせ2025年07月04日
すばる8月号、好評発売中です!
演劇界注目の劇作家・演出家ピンク地底人3号さんによる初の小説を掲載! 遠野遥さんの短期集中連載も最終回を迎えます。
-
インタビュー・対談2025年07月04日インタビュー・対談2025年07月04日
石井遊佳×藤野可織「魂を自由にする虚構の力」
ホラー愛好家を自認する藤野さんは石井さんの新作に詰まった四つの物語をどう味わい、そこに何を見つけたのか。
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
給水塔から見た虹は
窪美澄
2人の“こども”が少しずつ“おとな”になるひと夏を描いた、ほろ苦くも大きな感動を呼ぶ、ある青春の逃避行。
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
青の純度
篠田節子
煌びやかな「バブル絵画」の裏に潜んだ底知れぬ闇に迫る、渾身のアート×ミステリー大長編!
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
情熱
桜木柴乃
直木賞受賞作『ホテルローヤル』、中央公論文芸賞受賞作『家族じまい』に連なる、生き惑う大人たちの物語。