私は結婚相談所で働いている。

 婚活は自分との戦い……というより、ライバルとの戦いだ。自分より恵まれた人が可視化される。私も婚活経験者なのでよく分かる。

 もっと美人に生まれていれば!

 もっと親が私を明るく育てていれば!

 もっと実家がお金持ちなら!

 あの友達は恵まれてるのに、私はどうして!

 考えてもどうしようもないことを、ぐるぐる考えてしまう。

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった書影
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』岸田奈美/著(小学館)

 この本を書いた岸田奈美さんは、圧倒的に『恵まれていない』部類に入るだろう。父は急逝、母は下半身不随、弟はダウン症。母は「死にたい」と言い、弟は万引きを疑われ、自分は鬱で会社に行けなくなり、次々にトラブルが降りかかる。

 しかし、そんな中でも、奈美さんは何とか前を向いて生きている。

 失敗ばかりでも、当たり前のことができなくても、生き辛さを抱えていても。

 楽しく生きることはできるのだ。楽しく生きないと損なのだ。希望はどこにでもあるのだ。

 笑って泣いて救われて「自分も一つ、できることからやろうかな」と思わせてくれる一冊。

ふしぎ駄菓子屋銭天堂書影
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂2』廣嶋玲子/作、jyajya/絵(偕成社)

 短編「おもてなしティー」の主人公みどりさんは43歳。独身だ。

 ちゃんと働いて、好きな雑貨を買い、素敵な店で食事し、コンサートにだって出かける。

 一人で楽しく生きているはずだけど、たまに寂しくてたまらなくなる。そんなみどりさんの前に差し出された不思議な紅茶。

 「心に風がふくときはありませんか? すべてが砂のようにくずれてしまいそうに感じるときはありませんか?」

 そのお茶を淹れると、毎回話し相手が現れる。寂しくなるたびにお茶を淹れて、楽しい日々を過ごしていたみどりさんだが、ついに紅茶は最後の一杯になってしまい……。

2022年「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」で
第1位の大人気シリーズ。

 恵まれていても、一人はやっぱり寂しい。何もかも持っていても、一人であるだけで「自分は恵まれていない」と感じてしまう人もいる。

 でも、寂しいと感じたなら、自分から手を伸ばせばいい!

 勇気を出したみどりさんは、ある人物を夕食に誘う。

 「自分は恵まれていない」

 そう感じる日は誰にでもある。

 そんな時、そこでただ立ち尽くすのか、一歩でも前に進むのか。

 どちらを選ぶかで、人生は変わってくるのかもしれない。