人前で喋ったり笑ったり泣いたりする、舞台女優というお仕事をしています。でも、舞台上では人前という感覚があまり無いんです。何故なら、お芝居をしているとお客さんがいることも忘れるから。それ以外の日常生活で人と会う時のほうが、人前に出ている気分です。人から自分がどう見られているか気になって、誰とも会いたくないなと思ってしまいがち。私にとって人前に出たくないと感じるのは人と会いたくない時なのです。そんな時、私を励ましてくれる本をご紹介します。

『きみを嫌いな奴はクズだよ』
木下龍也/著(書肆侃侃房)

 一冊目は木下龍也さんの歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』です。

 生きていたらどうしたって、私を嫌っている人とも会わなくちゃいけない場面がある。その時は、この本のことを思い出します。なかなかドキッとするタイトルですが、ここに詠まれている短歌は、どれも穏やかなのに鋭い切れ味のものが多く、ざっくりと心に痕を残していきます。でも、その痕が少しずつ自分を強くしてくれるのです。私を嫌いだと思った奴がクズなのかもしれない、なんて考えたら、しょうがないなと思えませんか?

 そもそも、嫌われてるって自分の思い込みかもしれませんよね。誰かと会う時、何が気にかかるかって、相手からどう思われるかだと思います。可愛いって思われたい、おもしろいって思われたい、そんな思いが募ります。そのせいで「相手に嫌われたくない」と考えてしまうのではないでしょうか。私も、すぐ思い悩んでしまうところがありました。でも、ある作品に出会って少しだけ変われたのです。

『成瀬は天下を取りにいく』
宮島未奈/著(新潮社)

 それが二冊目にご紹介する宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』です。

 我が道を全力で突き進む中学生の成瀬あかりと、彼女の周囲にいる人々を描いた作品。この少女は、普通の人なら言うのを躊躇うことだって、まっすぐ言える子です。「200歳まで生きたい」「M-1に出てみたい」等、人から笑われてしまいそうなことも、チャレンジしたくなったら最大限の努力をする。がむしゃらな彼女の姿に、周囲の人々も心動かされ、みんな成瀬のことが大好きになります。誰にどう思われても関係ない、自分の道を進む強い信念が輝いてみえました。

 人のことなんて気にせず過ごしたいですよね。でも、そんなのはなかなか難しいから本の言葉や登場人物にちょっとだけ力をもらって、私は一歩、外に踏み出すのです。