年を重ねるほどに、悩みを相談することが難しくなってくる。
 自分も周りも、仕事や育児に忙しい。かつては通じ合っていた友達でも、状況が細分化するので「言ってもわかってくれないだろうな」と思ってしまう。

 だけど実は、悩みを相談するなら「わかってくれそうな同じ立場の人」なんかを選ばない方がいいと思う。むしろ自分からかけ離れた相手の方がいい。
 たとえば、縄文人。

『縄文人に相談だ』
望月昭秀/著(国書刊行会)

 『縄文人に相談だ』は、人生のいろいろな悩みを縄文人に相談できるという画期的な本だ。実際には縄文人のふりをした縄文マニアの編集者なのだが、誰にも頼まれていないのに「縄文ZINE」という自費出版雑誌を出し続けている縄文愛の強い人なので、見なし縄文人として差し支えないと思う。

 一万年を越える昔の、まったく違う生活をしている人間の視点からの回答を読むと、自分の囚われている場所を俯瞰できるのだ。というか、たいていの悩みは「貝塚に捨てろ」と貝塚送りにされるのでわりとどうでもよくなる。どうでもよくなって、また貝を焼いて食べるくらいの元気が出てくる。

 さて、縄文の次は宇宙のスケールから枠を俯瞰してみよう。
 とはいえ、「宇宙人に相談だ」という本はまだないし、宇宙人に相談したら地球の悩みの大半は「ブラックホール送りだ」と言われるかもしれない。
 そこでおすすめしたいのが、マンガ『星は、すばる。』。

『星は、すばる。』
日渡早紀/著(白泉社文庫)

 天文×青春がテーマの作品は数あれど、元祖にして金字塔だと個人的に思っている。自己の成り立ちに、他者との関係。不変的な悩みが、天体の物語にトレースされ、その重ね方はとても文学的で、こころの宇宙に深く響いてくる。地球に届いた数億光年前の光に思いを馳せ、今という時も、そして自分という存在もまた、一瞬の光なのだと気づく。

 悩みの大半は思い込みだと思う。
 「お金がないと生きていけない」「仕事を辞められない」「離婚できない」……すべて、思い込みという狭い枠の中に囚われた結果、抜け出せなくて「悩み」になるのだ。
 その枠からはるか遠い、まったく違うスケールで物事を見る他者が私たちには必要だ。それが時に縄文人だったり、星だったり、優れた書物だったりする。