インタビュー

藍銅ツバメ

藍銅ツバメ「キャラクターの執心に惹かれ」

書評

なんともユニークな幕末妖怪ファンタジー

大森望

 時は幕末。物語の主人公は、八代目・山田朝右衛門(刀剣の試し斬り役を務める山田家の当主は代々“浅右衛門”だが、六代目と七代目は“朝右衛門”を名乗った)。
 公務として数え切れないほど多くの死刑囚の首を斬ってきた朝右衛門だが、今日ばかりは勝手が違う。むしろの上に膝をつかされた罪人の頭は黒い毛に覆われ、馬とも鹿ともつかない奇妙な顔をしていたのである。さらに妙なことに、他人にはそれがふつうの人間の顔に見えるらしい。委細かまわず役目を果たそうとしたものの、首斬りは失敗。罪人は超人的な力を発揮して仕置場から脱走し、その夜、朝右衛門の屋敷を訪ねてくる。胴を真っ二つにされても死なない彼は、服部半蔵と名乗り、「アンタも何かにかれてるだろ」と言い放つ。朝右衛門に近づく者が命を落とすのはそれが原因だと喝破し、アンタと自分は三百年ほど前からの縁があるので側に置いてくれと言う。こうして、炊事洗濯針仕事あらゆる雑用を器用にこなす半蔵との奇妙な共同生活が始まった……。
 というわけで、本書は死神に憑かれた八代目・山田朝右衛門が不老不死の怪人・服部半蔵(自称)とタッグを組んで怪異の謎に立ち向かうホラー時代劇。いやむしろ、風変わりな幕末BLものかと思って読んでいると、安倍晴明の子孫を自称するすっとぼけた庶民派の陰陽師(薙刀なぎなたに憑いた悪霊をはらうためになぜか安産のお守りを処方したりする)も登場。妖怪ハンター三人組の掛け合いはコミカルだが、時代が時代だけに、吉田松陰や沖田総司、土方歳三も登場し、史実と怪異が入り乱れる展開に(七代目朝右衛門は実際に松陰を処刑している)。後半は、朝右衛門自身のかつての親友とのしがらみを軸に、(犬と子どもを交えて)意外な方向に飛躍する。
 著者の藍銅ツバメは、人魚と人間の恋を描くラブコメ時代ファンタジー『鯉姫婚姻譚』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、2022年にデビューした新鋭。ユーモアとシリアスを絶妙にブレンドしたなんとも独特な作風は、第二作となる本書でも健在だ。

「青春と読書」2025年5月号転載