恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第44回:10分遅刻して卒論を出せなかった時
案内人 ホリコシさん
2025年07月15日
去年の12月某日15時1分、僕は留年が確定しました。卒業論文を完成させていたのにもかかわらず、あまりに締め切り直前に提出しようとしすぎてしまったため、ワードのデータをPDFに変換するのに手こずってしまったのです。14時半頃、iPadでワードにサインインしていないことに気づき、急いでサインインしようとするも電話番号とパスワードが一致しません。焦った僕はメールアドレスでのサインインに変更するもそこでもうまくいかず。時間は無常に過ぎていき、留年する運びとなりました。
それまで順調に単位を取得していた僕は、自分の身に何が起こったのかを自覚するまで時間がかかりました。今まで経験したことのない速さと強さの鼓動。ドクドクドクドクドク。Zeppにいるのかと思いました。腹まで響いてくるドラムみたいな。ぼーっとして数秒後、脳内にぼんやりと「留年」の二文字が浮かんでくる。
正直に言いますけど、そんな状態で本なんて読めないですよ。まず活字がトラウマになります。ないでしょう。活字がトラウマになったこと。僕なんて卒論の執筆のためによく通っていたドトールすらも数ヶ月行けなかったです。卒論のことを思い出すから。
しかし、卒論の提出に失敗したことをXで呟いたところ、「僕も同じミスしました」とか、「私は期限を勘違いして出せませんでした」などといったメッセージを何人かがくれたんですよね。一人じゃないんだ、と思えて少しうれしかったです。
一人でも多くの人が卒論を無事提出できることを祈りながら、あなたが万が一出せなかった場合におすすめの本を紹介します。
1冊目 くどうれいん『うたうおばけ』

普段エッセイをよく読むのですが、特にくどうれいんさんが好きです。丁寧な言葉遣いで描かれた、彼女の身の回りに起きたことやくどうさんの友達とのエピソードなどなど。それらを読んでいると、徐々に心がほぐれていく実感があります。自分の人生にいっぱいいっぱいなときこそ、人の人生を覗き見することは楽しいし大切。
この『うたうおばけ』の中だと、「うにの上」がおすすめです。くどうさんの三つ上で、船の上で働く友達、“おりょうちゃん“と久しぶりに再会したくどうさんは、二人で一緒にうにを食べに行きます。
店から家まで歩いて帰ろうとするおりょうちゃんに、「こんなに遠いのに歩くの?」とくどうさんは尋ねます。それに対しておりょうちゃんは、「陸をまっすぐたくさん歩けるって、幸せなことだよ」と返す。今までさまざまな文章を読んできましたが、ここまではっとさせられたのは初めてでした。そうか。歩けるって幸せなことなんだ。
自分では当たり前だと思っていることでも、誰かからしたら幸せで特別なことなのかもしれないと気づいたときから、見える世界が少し変わった気がします。
今自分が置かれている環境、持っているものを改めて認識して、打ちひしがれているときこそそこに感謝しようと思えるきっかけでした。そうです。まず大学に通えていることに感謝です。
とはいえ、やはりまだ活字を読めないという人もいるでしょう。落ち込みすぎて本を読む気になれないなんて人もいるかもしれない。そうなったら漫画の出番。僕の好きなオードリー・若林正恭さんの言葉で、「ネガティブを潰すのはポジティブではない。没頭だ。」というものがあります。面白い作品に没頭してみるというのも、一つの手かもしれません。
2冊目 薄場圭『スーパースターを唄って。』

人並みに本や漫画、ドラマに触れてきた自負はありますが、その中でもこの『スーパースターを唄って。』のインパクトはかなりのものです。17歳ながらドラッグの売人として生活する主人公の雪人が、ラップを通して感情を解放していくという話なのですが、とにかく雪人の育ってきた環境が壮絶で。この漫画の見どころであるラップのシーンももちろん素晴らしいのですが、僕はそれと同じくらい雪人の育ってきた環境の描写が印象的でした。これを読んだら卒論に悩んでるのなんてばかばかしくなってきますよ。この年でこれだけの経験をしている雪人に比べたら、どうってことないなって。
プロフィール
関連書籍
新着コンテンツ
-
お知らせ2026年09月08日
お知らせ2026年09月08日『ハヤブサ消防団 森へつづく道』発売記念 サイン入りTシャツプレゼントキャンペーンのお知らせ
『ハヤブサ消防団 森へつづく道』の発売を記念し、著者の池井戸潤さんの直筆サイン入りTシャツをプレゼントするキャンペーンを実施いたします。
-
インタビュー・対談2026年09月07日
インタビュー・対談2026年09月07日堂場瞬一「新聞が潰れたあと、記者たちはどう生き延びるのか」
日本を代表する大手新聞社「日本新報」を舞台にしたメディア三部作、十年ぶりの続編! あえていま、堂場さんがこの物語を書いたのはなぜなのか。
-
インタビュー・対談2026年09月04日
インタビュー・対談2026年09月04日石田夏穂×酒井順子「新しい時代の悪口を求めて」
見た目のこと、表現のタブーのこと、現代の悪口のことなど、さまざまなテーマについて語りあった渋谷・大盛堂書店でのイベントの様子を載録します。
-
お知らせ2026年09月04日
お知らせ2026年09月04日すばる10月号、好評発売中です!
集英社創業100周年記念特集「100人が書く「百年後」」には錚々たる執筆陣が集結!
-
インタビュー・対談2026年08月26日
インタビュー・対談2026年08月26日下村敦史「SNS時代の不透明な人間関係が謎と混乱を呼ぶミステリ」
SNSで名指しで放たれた「死ね」という言葉。それが殺人事件の引き金になったら? 現代社会を象徴するかのような作品の執筆の裏側を伺いました。
-
インタビュー・対談2026年08月24日
インタビュー・対談2026年08月24日『小説 ヒトラー』全三巻刊行開始記念 佐藤賢一「ヒトラーの何が悪かったのか、何が怖いのかということを
いまなおさまざまな角度から検証され続けているこの人物を、佐藤さんはどのように描いたのか。本書に込めた思いを伺いました。