【書評】料理エッセイファンと堂場瞬一ファン両方に必携の書 評者:大矢博子(書評家)

 堂場瞬一といえば、警察小説とスポーツ小説を軸に多彩な作品をハイペースで生み出す人気作家だが、その作品の中にはジャンルを超えて共通する特徴がある。食の描写だ。

 マメに家庭料理を作るシングルファーザーを登場させる一方で、カレーとファストフードばかりの刑事を描く。コーヒーにこだわりのある刑事を出したかと思えば、ストイックなまでに栄養管理をするランナーの話もある。その食の描写は、その人物がどんな性格で、どんな生活を送っているかを如実に語っている。スリリングなサスペンスでも手に汗握るスポーツ小説でも必ずと言っていいほど詳細な食事場面が登場するのは、そこに著者が人間と生活のリアルを込めているからだ。

 ──と、なれば。その作者自らが食エッセイを書いたってんだから、そりゃもうそこかしこに〈堂場瞬一の人間と生活〉が滲み出るのは当然なのである。たとえ本人が嫌がろうが、漏れてしまうもんなのである。さらに、美味しそうなものを美味しそうに具体的に描くことにかけては人後に落ちない作家なのだから、もちろん料理そのもののルポも期待できる。料理エッセイファンと堂場瞬一ファン両方に必携の書なのだ。

 本書は著者が料理を食べてそれをレポートするという極めてオーソドックスな構成だが、まずそこにルールがあるのが面白い。日帰りであること、食事は1時間以内に済ませること、食べ残さないこと、の三つである。前の二つは多忙だからということで(ほら、もう〈堂場瞬一の生活〉が滲み出ている)、それゆえに『弾丸メシ』なのだ。

 紹介されるのは福島の円盤餃子や横浜での各国料理、函館のハンバーガー、高崎のソースカツ丼、熊本の太平燕、東広島の美酒鍋、ヘルシンキのカラクッコ、アントワープのフリットとワッフル……いやいやいや、待て待て待て! 日帰りの弾丸メシでヘルシンキって何だ。アントワープって何だ。したのか日帰り。──そんなわけはなく、本文を読めば「そういう日帰りかあ」と納得はするものの、いやそれはちょっとズルいような(ほら、ここにも〈堂場瞬一の人間〉が滲み出ている)。

 各料理の描写は本文に譲るが、とにかく具体的で美味しそうなのは小説の筆致でも証明されている通り。食べたくなること請け合いだが、それだけならグルメ雑誌を読めばいい。やはり面白いのは〈堂場瞬一の人間と生活〉なのだ。円盤餃子に白飯がつかないと嘆き、新潟のカレーで米の美味さを再認識し(どれだけ白飯好きなのか)、極甘のカフェオレに部活帰りの高校生なら一気飲みだなと想像し、ステーキと聞いて荒ぶる。食を前にした堂場瞬一が想起するあれこれが、そのまま読者の食の思い出をゆり起こす。白飯の美味さ、ステーキのスペシャル感。わかるわかる。

 その〈堂場瞬一の人間と生活〉があるからこそ、料理の描写ひとつひとつがさらに具体的に、まるで温度や匂いまで伝わってくるほどに、目の前に浮かぶのだ。美味しそうに食べている、楽しそうに食べている、驚きながら食べている──だから読んでいるこちらも食べたいと思うのだ。小説で食の描写を通して人物を描くように、本書はまさに、堂場瞬一自身が(はからずも)しっかりと描かれた食エッセイなのである。再度言おう。本書は、料理エッセイファンと堂場瞬一ファン両方に必携の書だ。

 なお、堂場瞬一がずっと「俺はエッセイは書かないよ」と宣言していたのを知っているファンもいるかもしれない(私も聞いた)。本人は往生際悪く、本書はエッセイではなくルポだと言い張っているが、「食べ残さない」というルールが2回目にして破られたのを読めば、まあ、それも〈堂場瞬一の人間〉が出ていると言える……かな?

(2019年12月27日掲載)

担当編集より

弾丸旅で、ご当地名物を食べまくる! 堂場瞬一さん初のグルメエッセイ『弾丸メシ』 10月25日(金)発売

10月25日(金)、堂場瞬一さん新刊『弾丸メシ』が刊行となりました。
「どんなに忙しくても、食べたいメシがある」。業界でも屈指の忙しさの著者が、ただその一心で、全国各地…のみならず海外にまで、弾丸旅でご当地名物を食べに行く、グルメエッセイです!
漫画原作者の久住昌之さんからは、
「遠距離弾丸食いでも、ちゃんと味わって細かく描き表しているのがさすが。読んでて食べてみたくなる。ボクは旅先でせっかく美味しいものを食べても、呑んで忘れちゃったりします。」という推薦コメントをいただきました!

『弾丸メシ』の旅には、3つの掟があります。
◎必ず日帰り
◎食事は一時間以内に済ませる
◎絶対に残さない

果たして堂場さんはこの掟を守ることができるのか…。

以下、訪問地・料理はこちら!
第1回 福島 円盤餃子
第2回 横浜 各国料理
第3回 函館 「ラッキーピエロ」のハンバーガー
第4回 熊本 太平燕たいぴーえん
第5回 アントワープ フリットとワッフル
第6回 東広島 美酒鍋
第7回 高崎 ソースカツ丼&焼きまんじゅう
第8回 ヘルシンキ カラクッコ
第9回 吉祥寺 ステーキ
第10回 新潟 爆食ツアー
番外編 松山 鯛めし

巻末には平松洋子氏との対談を収録しています。
食と旅の魅力が詰まった、堂場さんにとって初のエッセイ本となる本作を、ぜひご一読ください!