内容紹介
1945年8月、世界で初めて人間に使用された2つの原子爆弾。
広島と長崎に投下されたそれらは連合国軍に勝利をもたらし、当時のアメリカの世論調査では85%が核爆弾の使用を肯定した。
その後も、二都市の壊滅状態は意図的に市民には伏せられていた。
禍々しいキノコ雲と破壊された都市の写真は新聞に載っても、そこで苦しむ人々の写真は明かされなかった。
アメリカ政府は、“ヒトラーよりもひどい残虐行為をした”という評判がたつのを望まなかったのだ。
だが翌年、たった一人の記者が書いた雑誌の特集記事『ヒロシマ』が、社会を大きく揺るがすことになる――
記者ジョン・ハーシーと雑誌『ニューヨーカー』は、いかにしてアメリカ軍とGHQの隠蔽・検閲を乗り越え、世紀のスクープを世に明かしたのか。
国家権力へ挑んだ、そのジャーナリスト精神に迫る。
プロフィール
-
レスリー・M・M・ブルーム (Lesley M. M. Blume)
ロサンジェルスを中心に活動しているジャーナリスト、ノンフィクション作家、小説家。『ヴァニティ・フェア』『ニューヨーク・タイムズ』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『パリ・レヴュー』など各紙誌に寄稿している。アーネスト・ヘミングウェイについて執筆したノンフィクション『Everybody Behaves Badly』は、『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーランキング入りを果たした。
-
髙山 祥子 (たかやま・しょうこ)
1960年、東京都生まれ。成城大学文芸学部ヨーロッパ文化学科卒業。翻訳家。訳書にレスリー・M・M・ブルーム『ヒロシマを暴いた男』(集英社)、ジャネット・スケスリン・チャールズ『あの図書館の彼女たち』(東京創元社)、キャサリン・ライアン・ハワード『56日間』(新潮文庫)ほか。
第二章 特ダネで世界を出し抜く
田舎者と猫背の男
誰もが予想するとおり、西四十三番ストリート二二九の〈ニューヨーク・タイムズ〉本社は素晴らしい建物だ。タイムズスクエアはその名前を、かつては街で二番目に高かった、近隣にあるこの新聞社の旧社屋から取った。新しい社屋は、権力と威厳を見せつけていた。それは石灰岩とテラコッタの“お城のような”建造物で、十一階建てを誇る。〈ニューヨーク・タイムズ〉が発展し続けるにつれて、新聞のオーナーたちは階や翼棟を建て増し、とうとう〈ニューヨーク・タイムズ〉は“世界一の完璧な新聞社”だと宣言した。
〈ニューヨーク・タイムズ〉の本社と通りを隔てた場所に、まったくちがう仕事をする出版社があった。〈ニューヨーカー〉誌の本社だ。近隣の大手出版社とはちがい、〈ニューヨーカー〉のオフィス――西四十三番ストリート二五の建物のうちの数階――は、誰が見てもお粗末なものだった。
「社員たちは、不潔なことに一種のプライドを感じていた」と、古くからの〈ニューヨーカー〉の寄稿者は言った。「あの雑誌は、オフィスを美しくする余裕がないとわかったら、逆にできる限り汚くすると決めたらしい」ときどき天井から漆喰が落ちた。壁のペンキが渦状に剥がれていた。作家や編集者は、中央廊下に沿って並んでいる“荒涼としたペンキの剥がれた小さな独房”のような部屋で働いていた。
新着コンテンツ
-
インタビュー・対談2025年11月20日
インタビュー・対談2025年11月20日永井玲衣「言葉との出会いや、それを通して世界とどう出会い直すかを書きたかった」
永井さんがあちこちで行っている哲学対話での出来事を例に挙げたり、心の琴線に触れた詩や短歌を引用したりしながら展開していく本書への思いとは?
-
お知らせ2025年11月17日
お知らせ2025年11月17日小説すばる12月号、好評発売中です!
今年度小説すばる新人賞、抄録掲載! 天野純希さんの新連載、矢野隆さんの対談など本賞出身作家の活躍も見逃せません。
-
インタビュー・対談2025年11月17日
インタビュー・対談2025年11月17日矢野 隆×よじょう(お笑い芸人・ガクテンソク)「命と向き合う「猟師」のリアル」
矢野隆さんの最新作は狩猟、そして山と共に暮らす人々の生きざまがテーマ。狩猟免許を持つ芸人・よじょうさんと語り尽くしていただきました。
-
連載2025年11月15日
連載2025年11月15日【ネガティブ読書案内】
第48回 荻堂 顕さん
「自分には帰れる場所がない」と思った時
-
インタビュー・対談2025年11月06日
インタビュー・対談2025年11月06日温 又柔×成田龍一「歴史の中の「私」と、私たち一人ひとりの「歴史」」
日本人である「私たち」を国家としての日本に縛り付ける「しがらみ。現代を代表する歴史学者と小説家による、「戦後日本」を解きほぐす対談。
-
お知らせ2025年11月06日
お知らせ2025年11月06日すばる12月号、好評発売中です!
新作小説は新崎瞳さん、上田岳弘さん、竹林美佳さんの3本立て。平野啓一郎さんの芥川龍之介についての講演録や温又 柔さん×成田龍一さんの対談も!