インタビュー

須藤アンナ

須藤アンナ「痛みとともに、より面白い形へ」

対談

須藤アンナ×村山由佳

村山由佳×須藤アンナ「誰か一人にとって大切な作品になってくれたら」

第37回小説すばる新人賞受賞記念エッセイ

不合格人生

須藤アンナ

 第一志望の都立高に落ち、私立の女子高に入学した。在学中、度重なるストレスで円形脱毛症に悩まされたが、不毛の荒野が野心を養い、私にペンを執らせた。
 第一志望の国立大に落ち、近所の私大に入学した。コロナ禍でオンライン授業ばかりだったが、オーフスとリーズへ、なんとか一か月ずつ短期留学をすることができた。まるで知らなかった文化に直接触れられ、とことん楽しく、かけがえのない日々だった。
 第一志望の出版社にも落ちた。なかなか小説で賞を獲れず、こうなれば出版社に入って自分の企画を通すしかないと野心をひた隠しにして臨んだものの、「あなた、本当は書く側をやりたいんでしょう」と面接官にあっさり見破られ、案の定お祈りメールを頂戴するハメになった。
 しかしそれでも野心は捨てず、企画書の選考がある会社を受けてみた。客観的な評価が、物書きの指針が欲しかったのだ。
「いやぁ、企画書を読んで爆笑したのは初めてですよ!」
 最終面接で、面接官にそう褒められた。私の信じるユーモアがちゃんと伝わったんだ! この方向でいいんだ! 努力を肯定してもらえた嬉しさに飛び跳ね、内定通知でさらに飛び跳ねた。ちなみにこの面接官こそ、弊社の社長であった。社長、その節はどうもありがとうございました。
 都立高に受かっていたら、体操部に入って五輪を目指していただろう。国立に受かっていたら、大学生活を司法試験の勉強に捧げていただろう。出版社に受かっていたら、忙しくてこんなたられば話を考える余裕はなかったはずだし、もし今の会社を受けていなければ、執筆の方向性に悩み、背中を丸めて惨憺たる社会人生活を送っていたに違いない。
 不合格だらけの人生だったからといって、人生そのものが失敗だとも、まして不幸だとも思わない。苦い経験もこうしてエッセイのネタになってくれているわけだし、敗北に心が折れて項垂れてしまえば、お釈迦様が垂らしてくれている蜘蛛の糸だって見過ごしてしまう。要するに心もちの問題なのだ。歩き続けてさえいれば、いつかはどこかに辿り着ける。
 そういうわけで、人生という不合格通知の山から見える景色に、私はけっこう、胸を張れるのだ。

「青春と読書」2025年1月号転載