内容紹介
他人に勝つことなど、どうでもいい。
自分の中に、絶対の強さを培え――。
松村宗棍(まつむら・そうこん)は13歳の頃、友だちをいじめる少年たちを打ち倒した。
それによって高名な武術家・照屋(てるや)に武の才を見出され、彼に弟子入りする。
元服を迎えて首里王府の役人となるが、強さが評判を呼んで、国王に御前試合への参加を命じられる。思いがけず琉球屈指の強豪たちに挑むことになり――。
国王との交流、「最強」の妻との出会い、好敵手との決闘、猛牛との戦い、弟子の自害……様々な出来事に直面しながら、彼は本当の強さを追い求めていく。
しかし、琉球王国崩壊の足音が聞こえ始めていた……。
プロフィール
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今野 敏 (こんの・びん)
1955年北海道生まれ。1978年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。卒業後、レコード会社勤務を経て執筆活動に専念。2006年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を、2008年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞をダブル受賞。2017年「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞受賞。空手有段者で、空手道場「今野塾」を主宰。
【書評】激動の時代を、唐手家は真っすぐに進む
細谷正充
警察小説の今野敏。こう書くたびに、心の中がザワつく。たしかに作者は、多数の警察小説のシリーズを抱える人気作家である。だが、それだけではないのだ。もっと幅広い題材と世界を持っているのである。
その中でも特に心血を注いでいるのが武道小説だ。理由がある。作者は作家であると同時に、空手道今野塾を主宰する武道家でもあるのだ。集英社で刊行している、実在の武道家を主人公にした一連の作品に、そうした武道家としての知見や想いが託されている。
しかも、『惣角流浪』『山嵐』に続く、三冊目の『義珍の拳』から、『武士猿(ブサーザールー)』『武士マチムラ』と、琉球の手(唐手)を書き続けている。最新作となる『宗棍』も同様だ。空手家である作者の、ライフワークといっていいだろう。
主人公の松村宗棍は、幕末から明治に当たる時代を生きた、琉球(沖縄)の手の達人だ。まだ元服前の松村は、親国(中国)の手を使う照屋筑登之親雲上の強さに感激して弟子入りを決意。やがて認められ、修行を重ねる。チルーという美女を妻にできたのも、手を使う彼女との手合わせに勝ったから。首里城の下働きから、王の指南役になったのも、御前試合で全勝したからである。松村の人生は、常に手と共にあった。
本書の主な内容は、松村の手の修行と戦いである。理屈家でせっかちな彼は、強敵との戦いの最中でも、考え、気づき、試す。地位を獲得し、武士松村と称えられても驕ることなく、手の道を求めるのだ。明治維新により琉球国がなくなっても、まったく変わらない。そんな松村の前進が、熱い読みどころになっているのである。
さらに薩摩の示現流との出会いなどを経て、親国の手を沖縄の手へと進化させていく様子も、注目すべきポイントだろう。手の型を作ったことや、後進の指導など、現在の空手へと続く道を切り拓いた松村の功績は、あまりにも大きい。その巨大な肖像を作者は、見事に描き切ったのである。
ほそや・まさみつ●文芸評論家
初出「青春と読書」2021年6月号
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