本書に寄せられたことば

他者とは、人生とは、未知の存在だ。
その未知とつながることの痛みと奇跡を、こんなにも優しく照らし出す作者はまるで灯台の光のよう。

絶対に私たちを見つけてくれる。

──松田青子さん(作家)

【書評】『韓国SF、降臨!』 評者:小谷真理さん

 昨今、欧米のSFを吸収しながら、独自の世界を構築して、大きく花開いたアジア系SF作家の活躍が目覚ましい。その中で本書は、韓国発の女性作家の手になるSF短編集。

 表題作は、隣人としてのエイリアンを描く。すでにエイリアンが地球に移住しているが、まだそれほど一般的なことではない、という設定なのだ。主人公は美術講師で、下宿した部屋のお隣に、エイリアンが居住している。

 SF世界で人とエイリアンとの関係といえば、欧米産SFの主流がいまだに闘争のイメージが強いせいか、なんとなく身構えてしまうのだが、本書の場合は一味違う。人間とは似ても似つかない隣人相手の話なのに、海外留学に来た外国人の隣で暮らすような話に見えるのだ。だがその日常感覚が、かえって異質なものに対して私たちが持つ偏見や差別意識といった現実の諸問題を、さりげなく浮かび上がらせ、ふと立ち止まらせる。

 他の作品も、エイリアンのみならず、ウラシマ効果や多元宇宙といったSF的な道具立てを用い、数々の不可思議さにみち溢れた世界の話なのだが、そこで生きている人々を非常に丁寧に描写する。そのリアリティの圧倒的なこと!

 一番どきりとした話は、アメリカのSF作家として著名なジェイムズ・ティプトリー・ジュニア自身が登場する短編「アリスとのティータイム」だった。男性作家として一世を風靡しながら女であることを暴露された、あの稀有な天才作家の壮絶な人生を、エイリアンですら自然体の日常感覚で描く著者がどう書いたのか。ネタは割れないが、穏やかさが時としてこれほどの衝撃性を孕むとは知らなかった。

 ティプトリーを主人公にするくらいだから、かの作家からフェミニズムSF的な方法論を学んでいることが窺われる。知的な大人の女性の思想であるフェミニズムを懐に忍ばせながら、本書では全体的には少女少年むきのストーリーに仕立てているところが心憎い。そのへんの姿勢が、日本の少女漫画家・佐藤史生や萩尾望都と期せずして共鳴しており、読んでいてワクワクしてしまった。

小谷真理(SF・ファンタジー評論家)
(『青春と読書』1月号より転載)

担当編集のテマエミソ新刊案内

切なさと温かさ、宇宙への憧れと不可思議を詰め込んだ、韓国SF短編集全15編。

もしも隣人が異星人だったら? もしも並行世界を行き来できたら?
そんな不思議な日常、あるいは非日常の中の営みを物語にした、韓国発のSF短編集が発売されます。

本書は、韓国発のSF短編集全15編。どこか現実から離れた壮大な未来観を湛えながら、それでいて内容には暗に移民やフェミニズム、同性愛者など社会性をもったテーマが示され、そして必ず人々の細やかな感情について、丁寧に真摯に描かれている……

そんな、懐かしくも新しい、「いま」の物語です。ぜひお楽しみください。

(K.S.)

★訳者・吉川凪さんによる解説を編集部noteにアップしました!

https://note.com/shueisha_bungei/n/n819507bf58ab