担当編集より

すべての書き手を、戦々恐々とさせる。
本物の小説家が、あなたの目の前にいる。

——真藤順丈氏(小説家)


人間はいつまでも夢を見続ける愚か者だと思います。
たとえば圧倒的に厳しい自然を切り開くような。
そんな荒唐無稽な賭けに身を任せてしまう——。
原動力は、功名心なのか、好奇心なのか、もしくは思考停止なのか。

たとえ思考停止だとしても、いくばくかの夢を見続けます。
いつかどこかに。どこか心地よいところに行けるように。
自分の力が形となり、亡き後も何か残してくれるように。

『土を贖う』は、様々な時代の北海道で夢を見た人間たちの物語です。
彼らをあざけるのでなく、憐れむでもなく、ただそのままに描かれています。
その切実さが身に迫り、私もまた愚かな夢の中にいる人間だと実感させられました。

河﨑秋子さんは、「本当のこと」が自然と見えてしまう作家なのでしょうか。
作品を読んでいても、お話をしていても、いつもそんなことを感じます。
生きていること、死んでいくこと、あがくこと、怒り、願い……。
言葉の本当の意味を、物語を通じて胸の深いところに放り込んできてくださる希有な方です。

ぜひ、この短編集を読んで下さい。

担当編集/S