担当編集のテマエミソ新刊案内
担当編集の仕事場の目の前に「メディカルモール」というのがあります。ここに病院が7つくらい入っていて、歯科医院、皮膚科、神経科などに加え、とうぜん内科もあったりします。軽い風邪なんかをひいたときに、この内科に行くのですが、そこの待ち合いソファの前に「インフルエンザ予防接種」とか「大腸検査」なんかのポスターと並び、「ピロリ菌」のポスターが貼ってあります。
ピロリ菌。その独特な響きから、何か楽しそうな、人のよさそうな菌を想起するのですが、もちろんそんなことはなく、話のタネにいつかピロリ菌検査をしてみたいと思っていたところ、ちょうど本書に所収の「極悪ピロリ完全掃討戦記」を読みました。なんでも強めの薬を一週間つづけて朝晩必ず飲むそうで、椎名さんにとってつらかったのは、その上飲んでいるあいだはずっといっさいアルコールが禁止されていることでした。もちろん「ビールはお酒じゃないからオッケー」などといったこそくな手段を講じたわけではありません。
で、椎名さんはどうやってその苦難を乗り越えたのか。それは読んでのお楽しみなのでここでは明かせませんが、怖いのはせっかく薬を飲み続けても、完全にピロリ菌が消えるのは8割から9割くらい、失敗する人もけっこういるらしいとのこと。
本書『われは歌えどもやぶれかぶれ』は、そんなふうにして、自分のアレコレと重ね合わせながら読むとめっぽう面白い話が満載で、他にも「『冷やし中華』の国際化を熱望する」とか「新幹線、となりの席の客問題」とか「落石とエアバッグ」とか、全50本くらいのエッセイがよりどりみどりです。なんだかいい感じにひなびた居酒屋で、ぬるいビールなんかを飲みながらえんえんと椎名さんと楽しくお話ししているような、そんなエッセイ集に仕上がりました。ぜひご賞味ください。(担当S)
著者プロフィール
- 椎名誠しいな・まこと
- 1944年東京生まれ、作家。「本の雑誌」初代編集長。流通業界誌編集長を経て、79年『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。89年『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、90年『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。『わしらは怪しい探検隊』シリーズ、『岳物語』シリーズなど著書多数。
「椎名誠 旅する文学館」
HP http://www.shiina-tabi-bungakukan.com/