近年、苛烈な眼差しを向けられるトランスジェンダー。
特集では、文学からこの問題にアプローチし、現状を変えるための物語を考える。
昨年のすばる文学賞受賞の大谷朝子さんの受賞後第一作「僕はうつ病くん」を一挙掲載、
新刊刊行記念の対談では、島田雅彦さん×金原ひとみさん、恩田陸さん×松浦寿輝さんが登場!

【小説】大谷朝子「僕はうつ病くん」
大好きな人と結婚し、仕事も順調で忙しい毎日を過ごしていたみゆ。でもある日、自宅の玄関ドアを開けると、小学校三年生くらいの背丈でゼリー状の黒い身体の“うつ病くん”が立っていた! すばる文学賞受賞作「がらんどう」の著者による新作小説。

【特集:トランスジェンダーの物語】
人間が平等に享受すべき権利や幸福から疎外される状況にあるLGBTQ+の人々。なかでもトランスジェンダーに向けられる眼差しが近年苛烈だ。文学からこの問題にアプローチし、現状を変えるための、トランスジェンダーの物語を考える。

小説/桜庭一樹「赤」
由弦はパートナーの花恋と静かに暮らしている。由弦は二十年ほど前、ガールズブラッドという八角形の檻(オクタゴン)の中で女の子にキャットファイトさせる店で働いていた。かつての仲間から連絡が入り……。『赤×ピンク』の後日譚。

小説/倉田タカシ「パッチワークの群島」
「この2054年を、無職の年、出産の年、そして子育ての始まりの年として自分の人生に刻むと決めた。」
母に連れられ、ある「同窓会のようなもの」にやってきた。初夏の公園で、人々はゆるやかに集い、談笑している。

小説/川野芽生「Blue」
オリジナル台本『姫と人魚姫』を演じることとなった真砂。個性豊かな演劇部のメンバーと議論を交わし、劇をつくりあげていく。数年後、大学生となった真砂に再演話が舞い込むが、その役を演じることはできないと拒絶し……。

小説/岩川ありさ「僕と自分を呼ぶことが義務づけられた私」
十二歳の夏、僕と自分を呼ぶことが義務づけられた私と瀬尾は、毎年続けられている合宿に参加していた。それは、「なよなよした少年を真っ当な男に導くため」のものだった。

小説/鈴木みのり「トランジット」
化粧品製造販売会社の商品企画部で働く芙美はいくつかのSNSのアカウントをフォローしている。自分の別バージョンと思えるような人の投稿を読めば、自己嫌悪が誘発されることはわかっているのに開いてしまう。

エッセイ/中村 中「いつになったら、私は人間になれるのだろうか。」
“うちの局はLGBT物、得意ですから”あるドラマのオファーを受けた時に言われた言葉。“物”ってなんだろう。カミングアウトすら「物(話題)」にしか感じない人が確かにいる……。

エッセイ/三木那由他「私たちには物語が必要だ」
シスジェンダーの人たちは、フィクションを通じて容易に将来の自分を思い描けるのではないだろうか? かつて抱いたトランスのキャラクターたちへの憧れを思い返しながら、その描かれ方の偏りを思う。

エッセイ/高井ゆと里「トランスジェンダーの定義を知りたいあなたへ」
著者は昨年、ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題』を訳したことをきっかけにトランスジェンダーに詳しい人と見なされるようになった。取材のときに必ず聞かれるのがその定義で……。

随想/周司あきら「家父長の城」
遠目に観察してきたその城は、とてつもなく背が高かった。とんがっていて、固く、長い。青年は生まれ育った女村から、その城の門に向かって出発した。そして辿り着いたときには、30年以上の歳月が経っていた……。

【対談】島田雅彦×金原ひとみ「『私』を更新し続けるために書くということ」
島田雅彦さんの新刊『時々、慈父になる。』が自伝的父子小説であることから、話題は「父性」や「家父長」から、現代の親子関係について、そして「私小説」を書くという創作論にまで、縦横無尽に拡がり……! 

【対談】恩田陸×松浦寿輝「創作する人間の宿命について」
恩田陸さんの『鈍色幻視行』『夜果つるところ』の2ヶ月連続刊行を記念し、恩田さんが昔から著作を愛読していたという松浦寿輝さんとの対談が実現。幼少期からの読書歴を通じた共通点、互いの作品の読み解き、創作論などを語る。

【講演】平野啓一郎「キーンさんの思い出」
日本文学研究者であり、海外に日本文学を紹介・翻訳したドナルド・キーンさん。2023年2月に開かれた、生誕百年記念講演会「キーンさんの思い出」の様子を載録する。作家・平野啓一郎さんがキーンさんとの思い出について語った。

【第48回すばる文学賞】
みずみずしく意欲的な力作・秀作をお待ちしています。募集要項は http://subaru.shueisha.co.jp/bungakusho/  をご覧ください!

連載小説、対談、エッセイ、コラム等、豊富な内容で毎月6日発売です。