
恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第9回:夢を諦めそうになった時
案内人 週末北欧部chikaさん
2022年05月16日
20歳の一人旅でフィンランドに一目惚れをしてから、ずっと夢だった「フィンランドで寿司職人になる」という夢が、ついに叶った。
会社員を続けながら寿司学校に通い、週末は寿司屋さんで修業を続けて3年目の出来事だった。現在はフィンランド人オーナーさんの経営するレストランで、毎日お寿司を作りながら作家活動を続けている。
一目惚れから移住まで13年。ここまでの道のりは叶えたい夢が原動力になっていたけれど、夢があるからこそ悩むことも、同じくらい多かった。
「無謀な夢なんじゃないか」「足りないことが多くて苦しいな」……そんな風に感じて、夢を諦めそうになる日もある。
けれどそんな時、ふわっと気持ちを軽くしてくれた本が2冊あった。

●『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版ストレングス・ファインダー2.0』

この本は私にとって「答えを教えてくれる」本だ。本に付いているシリアルナンバーを使ってWEBの性格テストを30分ほど受験すると、全部で34項目ある強みの項目から「自分の強み」5つを教えてくれる。
ペラペラと自分の強みの項目を読み込むと、苦しい時は決まって「頑張り方」を間違っていることが多いのに気づく。だから私は、なんだか「努力が苦しい」と感じる時は、決まってこの本を開くのだ。
たとえば私には“活発性”という状況変化を楽しめる強みがあるけれど、その分、あらかじめ計画されたことだけを続けてしまうと息が詰まってしまう。だから、ちょっと遠回りになったとしても「“今”を楽しむ余白を持とう」と思えるようになった。ゴールは同じでも「道のり」は人それぞれでいい。なんだか、そう思える本なのだ。

●かもめ食堂

この本は「サチエさんがいるから、大丈夫」と思える本だ。『かもめ食堂』は、フィンランドのヘルシンキに食堂をオープンした日本人女性・サチエさんの物語。
私の身近には「フィンランドで就業を叶えたい」という仲間はいなかったけれど、本の中には、それを実現したサチエさんがいた。現実だろうとフィクションだろうと関係なく、解像度の高い「自分にとってのロールモデル」がいることはとても心強かった。
私は自分の夢に「かもめ食堂プロジェクト」と名前をつけて、実現までの道のりもまるっと含めて「楽しく」夢を追うことにした。
小説の中のサチエさんは38歳。「ヘルシンキならやっていけるかも」と食堂を構えた自然体な姿が、頑張りすぎた私の肩の力を抜いてくれる。サチエさんが「すごすぎない」から、私もきっと“自分にもできるかもしれない”と思うことができたのだと思う。

フィンランド移住の荷造りでは、限りあるスペースにこの2冊を詰め込んだ。きっとこの先も、私が落ち込んだ日には、この2冊が寄り添ってくれるだろう。そう思うと、「夢の先」にある毎日のトラブルさえも楽しめる……私にとってこの2冊は、そんな心強い本なのだ。
(挿画/週末北欧部chika)
プロフィール
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週末北欧部 chika (しゅうまつほくおうぶ・ちか)
北欧好きをこじらせた人。大阪府出身。フィンランドが好き過ぎて13年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために、会社員生活のかたわら寿司職人の修行を重ね、ついに2022年春に移住。著書に『マイフィンランドルーティン100』『北欧こじらせ日記』がある。
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