恥ずかしい時、悔しい時、モヤモヤする時……思わずネガティブな気持ちになったときこそ、読書で心をやすらげてみませんか? あの人・この人に聞いてみた、落ち込んだ時のためのブックガイド・エッセイです。
第51回:ふられた時
案内人 古賀及子さん
2026年02月16日
絶望である。
もしかしたらと思っていたのだ。明らかに旗色は悪いが、あるいは……と。ほんの少しの可能性を最大限拡大解釈し、風にあおられながら腰の骨を右に左にぐらぐら揺らして、表情筋を弛緩させたままあなたの前に躍りだす。そうして、10日前から決心していたのに、まるで今突然思いついたみたいに喉の奥の方から細い息のように言った。
「すきですつきあってください」
だめだった。
……あれ?
そもそも可能性は2%くらいしかないと見積もっていて、順当にだめだったのに、まさかと驚く。だめなんだ!? そうして目の前からは色がなくなりました。
だいたいこのような様相で、私はこれまでの人生で何度か、きっぱりふられたことがある。
一番まずかったのは20歳の回で、相当しんどかったらしく一気に痩せて肌はかりかりに乾き生える髪のすべてが細くなった。この頃、私には読書の習慣がなかった。
偶然手元にあった本が、フィットネスクラブに体験入会した際にもらった、食品のカロリーをまとめた本で、よるべない私は我を忘れるべく、これを鬼気迫り一心不乱に繰り返し熟読したのだった。
読書が好きになった今、唖然とする20歳の私にもし手がのばせるとしたら。
岡田悠『駅から徒歩138億年』は、17年前に乗った新幹線の車窓からほんの2秒だけ見えた海を探しに行ったり、12年前にICレコーダーに録音した25時間の音声データを全部再生して聞いたり、過去の時間を今につなぐエッセイがまとめられている。

全長138kmの多摩川を宇宙の138億年の歴史になぞらえながら歩きつくす「川歩記」は、長い長い時間の途方もなさが、たった今の足元に鮮烈に接続される。読むにつれ、この瞬間がどうでもよくないものとして尊重されながら、同時にどうでもよくなっていく新鮮な感覚におおわれる。
岡野民『あの時のわたし 自分らしい人生に、ほんとうに大切なこと』は、黒柳徹子、田嶋陽子、向井千秋、角野栄子といった各分野の第一線で活躍する27人に、今につながる人生の“あの時”を聞いてまとめたもの。繊細に機微をすくうインタビューの妙だろう、そうそうたる面々にもかかわらずどこか自分の生にも関わるかのように届く。つながれた手が強く引っ張り上げられる読み心地だ。

絶望の夜に、この2冊を渡したい。立ち直った後また読むにもいい本だ。
プロフィール
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古賀 及子 (こが・ちかこ)
エッセイスト。1979年東京生まれ。日記エッセイ『5秒日記』、『私は私に私が日記をつけていることを秘密にしている』、スズキナオ氏との往復書簡集『文通 答えのない答え合わせ』など著書多数。
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