
内容紹介
草原の覇者チンギス・カンは、従来の騎馬隊に加えて、ボレウに歩兵部隊を、ナルスに工兵部隊を整備させていた。陰山の陽山寨を拠点に、騎馬隊と合流させ、まずは西夏の城郭へと軍を動かそうとする。ジャムカの息子マルガーシは、流れついたトクトアのもとで苛烈な修業を積み、次なる道へと動き出していた。ホラズム・シャー国の皇子、ジャラールッディーンは10歳で、護衛のテムル・メリクと共に旅に出る。予期せぬ邂逅が、それを待ち受けていた。
プロフィール
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北方 謙三 (きたかた・けんぞう)
1947年佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部卒業。81年『弔鐘はるかなり』で単行本デビュー。83年『眠りなき夜』で第4回吉川英治文学新人賞、85年『渇きの街』で第38回日本推理作家協会賞長編部門、91年『破軍の星』で第4回柴田錬三郎賞を受賞。2004年『楊家将』で第38回吉川英治文学賞、05年『水滸伝』(全19巻)で第9回司馬遼太郎賞、07年『独り群せず』で第1回舟橋聖一文学賞、10年に第13回日本ミステリー文学大賞、11年『楊令伝』(全15巻)で第65回毎日出版文化賞特別賞を受賞。13年に紫綬褒章を受章。16年第64回菊池寛賞を受賞。20年旭日小綬章を受章。24年毎日芸術賞を受賞。18年5月に新シリーズ『チンギス紀』を刊行開始し、23年7月に完結(全17巻)。『三国志』(全13巻)、『史記 武帝紀』(全7巻)ほか、著書多数。[写真/長濱 治]
隊伍が乱れているわけではない。
六千騎を、前軍、中軍、後軍と分けた。その順で進みながら、百人隊ごとに進みやすい地形を選んでいい、ということにしてあった。
誰もそうだとは思わないのだが、スブタイは隊列を組むのが好きではなかった。
スブタイは、伝令や斥候をなす者を百騎ほど連れ、前軍の前を進んでいた。すでに、西夏領の奥深くまで進んできている。
中軍に、チンギスとその麾下二百騎がいた。
しばしば、チンギスの副官の役割を担っているソルタホーンが、前に出てきて、スブタイと轡を並べた。
特に用事があるわけではなく、チンギスに命じられてもいなかった。行軍中は、動き回っているのが好きなのかもしれない。
「スブタイ将軍の百人隊は、それぞれに、実に見事に動くのですね」
阿っているような言い方ではなく、ほんとうに感心しているように聞えた。
あたり前だった。常に、そういう動きをさせているのだ。
前巻までのあらすじ
モンゴル族キャト氏の長イェスゲイの長男であるテムジンは、10歳のときにタタル族の襲撃で父を喪った。同じモンゴル族でタイチウト氏のトドエン・ギルテが、テムジンの異母弟ベクテルを抱き込もうとしたため、テムジンはベクテルを討って13歳で南へと放浪の旅に出る。テムジンは、のちに優秀な部下となるボオルチュと出会い、金国の大同府で書肆と妓楼を営む蕭源基のもとで正体を隠して働いた。その時期に「史記本紀」を読んだことが、テムジンに深い影響を与えた。一方、モンゴル族ジャンダラン氏の血気盛んなジャムカは、テムジンと同齢であり、トクトア率いるメルキト族と対峙していた。さまざまな経験を積んで草原に戻ったテムジンは、ジャムカと出会い、お互いを認めて友となる。そんな折、草原に精鋭の50騎を率い、最強ともいえる老年の男が現れる。玄翁と呼ばれ、岩山に住んで傭兵のように雇われる男だった。テムジンは、ケレイト王国のトオリル・カンと表面上の同盟を組み、モンゴル族タイチウト氏のタルグダイらに対抗する。ある戦いでタルグダイ側に雇われて戦った玄翁は、テムジンとの一騎討ちの過程で命を落とすが、テムジンに衝撃的な事実を告げ、吹毛剣を与えた。テムジンは金国とケレイト王国とともに、タタル族との戦いに挑み、父の仇敵を壊滅する。テムジンとトオリル・カンは金国の側に立ったが、ジャムカは金国が草原に干渉することを嫌い、その出兵要請にも動かず、反金国の立場を貫いた。ついにジャムカはテムジンと袂を分かち、テムジンに対抗しようとするタルグダイ、トクトアからメルキト族の長を引き継いだアインガと組んだ。草原が、ケレイト王国とテムジン、ジャムカたち三者連合の、二大勢力に分断されることとなる。そして草原の行く末を決める一大決戦が起き、激闘のすえにテムジンたちが勝利し、ジャムカ、タルグダイ、アインガはそれぞれに逃れた。ジャムカは北のバルグト族のもとに密かに身を寄せ、アインガはメルキト族の領地に戻り、タルグダイは南へと向かう。敗れたジャムカの息子マルガーシは、事件で母を失い流浪することとなる。ケレイト王国のトオリル・カンが、味方であるはずのテムジンを騙し討たんとするが、異変を察したテムジンは逆にケレイト王国を滅ぼした。トオリル・カンの末弟で禁軍を率いていたジャカ・ガンボは逃される。草原に大きな対抗勢力がいなくなり、モンゴル族統一を果たしたテムジンは、ついにチンギス・カンを名乗った。一方、逃れたジャムカは、チンギスとナイマン王国との戦において、ホーロイ、サーラルと共にナイマン軍のなかに潜み、チンギス・カンの首を狙う。チンギスは大軍を率いて少数のジャムカ軍を包囲、結着がつく。
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