内容紹介
大河ドラマの主人公・蔦屋重三郎の粋でいなせな一代記!!
山東京伝、曲亭馬琴、喜多川歌麿、東洲斎写楽……江戸っ子たちを熱狂させた大勝負、とくとご覧あれ。
豪華絢爛の吉原が業火の海に包まれた明和九年。多くの人が落胆する中で、江戸をふたたび元気にしようと心に決めた男がいた。蔦屋重三郎。通称蔦重と呼ばれたその男は、貸本屋では飽き足らず、地本問屋の株を買って自ら版元として様々な勝負に打って出る。「楽しんで生きられたら、憂さなんて感じないで済むんです」面白い書物や美しい浮世絵は、きっと世の中を明るくしてくれる――。彼の熱意が、山東京伝、喜多川歌麿などの心を動かし、江戸を熱狂に包んで行くのだった。しかし、そこに立ちはだかったのは……。エンターテインメント歴史小説‼
世の中は酒と書肆が敵なり どうにか敵にめぐり会いたい
プロフィール
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吉川 永青 (よしかわ・ながはる)
1968年、東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。2010年『戯史三國志 我が糸は誰を操る』で第5回小説現代長編新人賞奨励賞、16年『闘鬼 斎藤一』で第4回野村胡堂文学賞、22年『高く翔べ 快商・紀伊國屋文左衛門』で第11回日本歴史時代作家協会賞(作品賞)を受賞。著書に『誉れの赤』『治部の礎』『裏関ヶ原』『ぜにざむらい』『乱世を看取った男 山名豊国』『家康が最も恐れた男たち』『戦国・江戸 ポンコツ列伝』など。
書評
流行りを作り出した出版人の生涯
細谷正充
吉川永青が、江戸の地本問屋・蔦屋重三郎を題材にした。これは見逃すことができない。なぜなら作者は以前、重三郎が売り出した絵師・東洲斎写楽を主人公にした『写楽とお喜瀬』を刊行しているからだ。この作品で、写楽と深く関係するある人物の設定が大胆なもので、読んだときは仰天した。だから本書でも何かやってくれると思い、ワクワクしながら本を開いた。
吉原の妓楼「尾張屋」の養子であり、貸本屋を営む重三郎。吉原の火事の混乱の中で、人の心の本質と、それを動かす要諦を摑む。そんな重三郎が目指すのは、人々を動かすほどの流行を作り出し、世の中を楽しくすることだった。再建された吉原で引手茶屋も始めた「尾張屋」の一部屋を、間借りの店にして「蔦屋耕書堂」を開いた重三郎。吉原ガイドブックの『吉原細見』を出版するなどして、しだいに世に認められていく。
本書は、蔦屋重三郎の生涯を描いた、オーソドックスな歴史小説だ。しかし、ユニークな点がふたつある。ひとつは地本問屋として成功するまでの過程が、克明に綴られていること。「尾張屋」の上客として絵師の北尾重政と知り合いだったり、その北尾から人気戯作者の朋誠堂喜三二を紹介してもらったりと、人脈には恵まれていた重三郎。しかし単なる貸本屋で、資金があるわけではない。そこから知恵を絞り、いままでにない本や絵を出し、流行を作っていく。後半で曲亭馬琴や東洲斎写楽も登場するが、扱いはそれほど大きくない。サクセス・ストーリーと、成功してからの幕府の狙い撃ちのような弾圧を通じて、自らの理想を追い続けた男の一生を、巧みに描いているのである。
さらに、重三郎の女房のお甲をクローズアップしているのも、ユニークな点だ。貸本屋の上客の遊女で、年季が明けると、重三郎の押し掛け女房になったお甲。なにかと喧嘩しながら、一方で重三郎にインスピレーションを与える。彼女の気持ちのいいキャラクターも、大きな読みどころになっているのだ。
「青春と読書」2025年1月号転載
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