内容紹介
オモコロライター・作家/ダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)さん推薦!
【とにかくこの世は意味不明でしんどい――だけど「それでも。」が、ここと未来を繋いでいる。】
QuizKnockライター・歌人/志賀玲太さん推薦!
【真に正しい決意なんてわからない。これは、歪んでいても前へと進む「私たちのためのSF」だ。】
荒廃した東京で過酷なシェルター暮らしを送るあみぱん。唯一の「推し」、ポストアポカリプス系アイドルの節目おわたが配信画面から消えた日、彼女は凸ることを決意した。愛の正体を暴き出す挑戦的な“推し×ロードSF”「推しはまだ生きているか」。
29歳、タワマンとハリー・ウィンストンを夢見る藍子。ある時、謎の生命体に寄生されてから状況は一変し、ついに婚活ゴール男(港区在住、年収1000万円超、塩顔イケメンの細マッチョ)とマッチングするが……。“選ばれたい”願望の先を描く婚活SF譚「君のための淘汰」。
惑星「王球」では、人は老いれば必ず異形の怪物《老骸》と化す。老骸を殲滅する使命を担う「福祉兵器」円狗は、ある村の老骸殲滅作戦で唯一生き残った少女から「わたしのクロージング・プランに付き合ってほしい」と頼まれて――。命を巡る絶望と希望の行方を描き出す「福祉兵器309」。
ほか全5編を収録。最注目の新鋭が、ディストピア都市を舞台に“それでも生きていくこと”への祈りを込めて贈るSF短編集。
プロフィール
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人間 六度 (にんげん・ろくど)
1995年愛知県名古屋市生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。2021年『スター・シェイカー』で第9回ハヤカワSFコンテスト《大賞》、『きみは雪を見ることができない』で第28回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞。『BAMBOO GIRL』『永遠のあなたと、死ぬ私の10の掟』『過去を喰らう(I am here)beyond you.』『トンデモワンダーズ(上・下)』など著書多数。
インタビュー
人間六度「みんな生きることを疑っている。そのうえで、なんとかして生きる希望を見つけてほしい」
書評
決意は歪んでいたとして
志賀玲太
私たちのためのSFだ、と思った。ここでの「私たち」とは、同世代として共通する文化を胸に抱いている私たちのことであり、それぞれ向いている方向は異なれど似た悩みや問題にぶつかりながら、同じ時代に生きる私たちのことだ。ある小説が自分のいる場所のことを、自分の視線の先にあるものを見てくれている――それは、何よりのことだと思う。
本書は全五編からなるSF短編小説集だ。作者の人間六度は『スター・シェイカー』(早川書房)で二〇二一年のハヤカワSFコンテストの大賞を受賞しており、『過去を喰らう』(カンザキイオリ、花譜)、『トンデモワンダーズ』(sasakure.UK)といった人気楽曲のノベライズ版の執筆も行う気鋭の作家だ。収録されているのは、極端な循環型社会と化した宇宙船内を旅する「サステナート314」、「努力係数」ですべてが測られる社会で侵略者と戦うことを運命付けられた「完全努力主義社会」、苛烈な婚活市場で“戦い”に身を投じる「君のための淘汰」、老いた者はいずれ「老骸」と呼ばれる怪物となる絶望の惑星で、それを狩る「福祉兵器」の姿を辿った「福祉兵器309」、そして表題作の「推しはまだ生きているか」。それぞれの物語でシリアスに(ときにポップに)編み込まれるのは、我々の社会にとって馴染み深く、耳に痛くもある問題の数々だ。ただ、本書が堅苦しいだけの社会派小説なのかと問われれば、それもまた違う。作者が得意とし、アニメやゲームコンテンツの息吹を感じさせるバトルアクションに、遊び心あるワーディング。扱われる主題には真摯でありつつ、軽妙に料理されたそれはどこか不思議な読み味だ。『スター・シェイカー』で、作者は人類がテレポート能力に目覚めた未来社会で巻き起こる能力者バトルと、その社会の行く道を鮮やかに描いてみせた。テレポートというテーマ一本で繰り広げられる活劇と、意表をつく発想の数々に感嘆させられながら、「この作家の発想する世界のバリエーションをもっと見てみたい」と感じた読者もいるのではないだろうか。様々な世界観でもって、そんな思いに応えてくれるのがこの短編集だ。
さて表題作「推しはまだ生きているか」は、人類の「失敗」によって荒廃した東京を舞台にシェルターでの一人暮らしを続ける主人公・あみぱんが、唯一の心の支えである配信者の所在を追い求めるという話だ。彼女の推す「節目おわた」という名前の配信者は“ポストアポカリプス系アイドル”であるらしい。楽曲の歌詞やコール&レスポンスまでもが練られたその突飛ともいえる設定には、つい笑みも溢れる。しかし果たして、シェルター暮らしのあみぱんはそんなに遠い存在だろうかと、同時にそうも思う。今にだってスマホを開けばすぐさま立ち現れる素性の知れない配信者たち。仕事や学校から帰り、薄暗い部屋でそんな配信者たちの言葉の断片から何かを掴み取ろうとする現代の私たちの姿は、誰かが想像した未来だったのだろうか。『トンデモワンダーズ』の作曲者であるsasakure.UKの作品には、世界の顛末を描いた「終末」シリーズがある。本書にはそんなポストアポカリプスの世界への憧憬やロマンが感じられながらも、同時にそのロマンと我々のいる社会との接地面を作ってやろうという気概が見て取れる気がするのだ。
いつ終わるとも知れない旅を続ける船内に、外なる侵略者に対峙する国家、絶望に囚われた星の上。本書で描かれる世界の多くは何百年も先の話で、何光年も遠くの話で、舞台は限りなく広大であるはずなのに、それでいてどこまでも閉じられた場所のようだ。まるで、今の私たちを捕らえている何かのように。個人の力で飛び出すことは、ひょっとすると叶わないことなのかもしれない。それでも、ここでの物語の主人公たちは歪んでいても、迷いながらでも立ち向かうことを止めない。〈逃げていいと思えたから、ここに来ました〉(完全努力主義社会)。ページをめくりつつ気づけば主人公に勝てと、いや「打ち勝て」と願っている自分がいた。今の人々が直面している問題のうち、いくつかは近いうちに解決されるかもしれないし、いくつかは百年後も私たちを苛むのだろう。それでも、うわべだけの言葉が氾濫するこの時代に本書の物語たちはクリシェに抗ってみせ――ときに本心から叫んでみせ――この先をこのままに生きることの決意をくれる。もし日常というフレームがどこへ行くのかも知れない船に感じられるような、そんな思いに駆られたとき。『推しはまだ生きているか』で描かれる人物たちはきっと、あなたの一歩前を歩いてくれているはずだ。冒頭、私たちのためのSFと書いたが少し修正したい。ここにあるのは少しの悲嘆と、大きな決意に満ちた、あなたのための物語だ。
しが・れいた●東京都出身、東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業。クイズ王・伊沢拓司率いる東大発の知識集団「QuizKnock」に2017年6月より加入し、現在は同YouTubeチャンネルのディレクターとしてとして活動中。他、短歌やエッセイを中心とした文筆活動や、メディア出演など。
「小説すばる」2024年11月号転載
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