
プロフィール
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奥田 亜希子 (おくだ・あきこ)
1983年(昭和58年)愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年、『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞。著書に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『魔法がとけたあとも』『愛の色いろ』がある。本作は著者初のエッセイとなる。
まえがき
新社会人時代の同期五人のことを、人に「同期」と説明する癖が抜けない。
おかしいことはなにもない。私たちは確かに約十五年前、二〇〇五年の内定者懇親会で初めて顔を合わせた間柄で、私自身はその会社に一年しか勤めなかったけれど、その間、彼女たちと一緒に働いていたのは、掛け値なしの真実だ。それでも、私が彼女たちと遊んだ話をすると、相手はしばしばびっくりした顔でこう言うことになる。
「えっ、同期とそんなことするの? 仲がいいんだね」
そのたびに、またやってしまった、と思う。
担当編集より
2020年5月26日(火)、小説家・奥田亜希子さん初のエッセイ集『愉快な青春が最高の復讐!』が発売となります。
本作は、「大人になってからの青春」を綴った一冊です。そこには、パーティーやBBQ、フェスといった要素は皆無、何なら学生ですらありません。それでも、奥田さんが体験したある種の熱狂は、紛うことなき「青春」と呼べるものです。
登場するのは、奥田さんと、奥田さんが会社員時代に出会った、同期五人。平日は毎晩のように誰かの部屋に集まり、一台のベッドにぎゅうぎゅう詰めで眠る――会社のロッカーに共用の風呂道具を入れて、仕事帰りにみんなで銭湯に通う――北は北海道から南は長崎まで、弾丸旅行へ行きまくる――。
謎のバイタリティに溢れた6人を見ていると、自然とこちらも元気が出てくるはず…です。
小学生の頃から日記を取り続けてきた、記録魔である奥田さんだからこそ鮮明に振り返ることのできる、あまりにもさっぱりとした自虐エッセイです。
どうか笑ってあげてください!
【内容紹介】
会社の同期とは、仲良くなれないと思っていた――。
社会人になりスコールのように降ってきた怒涛の青春&痛々しくて直視できない過去の日記の数々……。
計14回に及ぶ弾丸旅行/つなぎ着用地獄のウォーキング/大人になってからの交換日記/ドレスコードのある人生/滑らないサンドスキー/子育てと罪悪感/35歳はじめての一人旅/記録魔の片鱗/人生初の同窓会
【書評】 評者:花田菜々子(書店員/『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 』著者)
自分が「モテない」ことを前提として、劣等感や自虐をまじえながら面白おかしく自分を描く文化というのは、この20年でほとんど出尽くした感がある。江川達也や古谷実によって描き出された「モテなさ」はやがて男子だけのものでさえなくなり、かつては選ばれる側でしかなく声を持たなかった女子へも、オタク界隈の「腐女子」や能町みね子の「モテない系」というワードとともに大きな共感を持って一気に広まった。そして時代の変化とともに自虐は廃れ、最近ではモテなくても楽しい、という部分の方が強調されているように思う。
さて、奥田亜希子のこの問題作についてである。初めてこの本の話を聞いたとき、「はいはい、それ系ね」と感じたのもまた事実である。だがしかし、読み進めるうちにこのただごとでなさに震撼した。面白おかしく脚色したエンタメ的なモテなさではなく、ダイヤモンドの原石のような本物の輝きがドテッとそこに転がっていたのである。本物のダサさ、イタさがここにはある。
しかしながら、この本の主軸はそのダサさイタさではなく、そんな暗黒の学生時代を過ごした著者に遅れてやってきた、友人たちとの楽しい日々の記録である。だがそれは、モテなさや垢抜けなさを克服する、という種類のものではない。ダイエットをして、メイクを覚えて、おしゃれな場所でデートして……といった今や古臭い成長物語とは真逆の方向へ著者は突っ走っていく。モテない人たちの仮想敵になりやすい「リア充」「パリピ」「ウェイ系」の人たちとの闘いもない。もはや敵視する必要もない。20代中盤で訪れたピュアな人生の喜びは、誰かの性的承認やカーストの上にいる女子たちとの競争の必要もなく、自立した喜びなのだ。まるでガンジーのように、誰かを攻撃しなくても闘うことができると教えてくれるのである。
それでも。この本のタイトルには「復讐」という言葉が入っている。
先日webで悲しい記事を見かけた。女性の社会学者による対談の記事で、「エロス資本」という言葉を用いながら「女性の価値は20歳前後で頂点に達し、35歳でくらいで消失する」という説が誰にとっても事実であるかのように話が進められていた。なぜ社会学者を名乗りながら、そのエロス資本なるものを持つことすらできず、価値のスタートラインにさえ立つことができずに苦しめられた20歳前後の女子の存在をなかったことにできるのだろう、と怒りが湧いた。スタートラインに立てないのは、もちろん外見の問題だけではない。
もちろん彼女の意見には多くのフェミニストたちがまっとうな反論をするだろう。だがしかし、どうだろう、奥田亜希子のこの、そんな価値観と闘うことすら放棄して、みんなでダサいお揃いのつなぎを着て、カラオケで深夜に「はたらくくるま」を熱唱する姿こそ、彼女に対して最高の復讐になるのではないか。彼女がどんなに「若くて綺麗な女子にしか価値はない」という呪いを擦り込もうとしてももう無駄だ。だって著者たちの「ゆうびんしゃ!」「せいそうしゃ!」というコール&レスポンスがにぎやかすぎてもうそんな呪いの声は聞こえないのだから。
時代の変化とともに、モテない語りはそろそろ終わりを迎えると思う。私には、時代が作り上げたこの大きなジグソーパズルの最後の1ピースを、奥田亜希子が置いてくれたように感じられた。
【漫画書評】 評者:山本さほ(漫画家)



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