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著者プロフィール
- 壁井ユカコ【かべい・ゆかこ】
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沖縄出身の父と北海道出身の母をもつ信州育ち、東京在住。学習院大学経済学部経営学科卒業。第9回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞し、2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。「2.43 清陰高校男子バレー部」シリーズの他、『空への助走 福蜂工業高校運動部』『K -Lost Small World-』『サマーサイダー』『代々木Love&Hateパーク』「五龍世界」シリーズ等著書多数。
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第一話 砂漠を進む英雄
2. EYE OF TYPHOON
タイムアウトのホイッスルが鳴った途端、灰島は足もとのクーラーボックスの取っ手を引ったくるくらいの勢いで掴んだ。申しあわせたように反対側の取っ手を掴んだ黒羽とともにウォームアップエリアを飛びだしてベンチへ走る。コートから引きあげてきた選手に黒羽と手分けしてドリンクボトルを配ってまわる。疲労で選手の視野は狭くなっているので円陣の外から一人一人の目の前にボトルを差し込んでようやく受け取ってもらう。選手の身体が発する汗と浅い呼気でベンチ前の湿度がむわっとあがる。
補給を終えた選手の手からタイミングを見てボトルを回収した頃、三十秒間のタイムアウト終了のホイッスルが鳴った。また黒羽とクーラーボックスを持ちあげて戻ろうとしたとき、監督に呼びとめられた。
「灰島」
用件の予感があって灰島は振り返った。立ちどまった灰島の横から三村が素早くクーラーボックスの取っ手を掴み、黒羽を顎で促してアップエリアに走っていった。
選手の背中に声をかけてコートに送りだしてから監督が近づいてきた。
「状況変わらなかったらサーブから入れようと思う。準備しといて」
「はい。いつでも行けます」
平静な顔で
第一戦から出場のチャンスが来た。
ローテーションがまわるまでうずうずしながらアップエリアで待機し、今入っているセッターがバックライトに下がるタイミングで、監督からあらためて指示がある前に自分から交代ゾーンへ駆け寄って副審に交代を申請した。
「リラックスな。落ち着いてけ」
四年生セッターの
「灰島、思いっ切り行けよ!」
「ネットにするくらいならアウトでいいぞ!」
コートメンバーがだしてくる手にぱぱぱっとテンポよく手を打ちつけながらコートをそのまま縦に抜け、励ましの声を背中に受けつつサービスゾーンへ。他大学の一年が務めるボール係からボールを受け取り、コートを後方から縦に見据えて立った。左手にボールを載せてまっすぐ前に伸ばし、軽くひと呼吸する。
コートの広さは高校と同じだが、大学のコートのほうがネットの向こうが狭く感じるのは、六人の選手の身体の大きさの差から来るものだ。無論高校と大学で極端な差があるわけではないが、大学は間違いなく高校よりレベルが一つ上だ。
さて……大学でどれくらい通用する?
ひと呼吸するうちにそれだけ考えたあとは
ズバンッ!と左手で打ち込んだボールが空気を浅く抉るような弧を描いて対戦する督修館のコートに飛び込む。前衛レフトの選手の右前方。つんのめって右手にあてたが右膝をついた。崩した! これで督修館はベストの攻撃に繋げられない。トスがライトにあがったが、欅舎の前衛がしっかりついてブロックタッチを取った。
リリーフサーバーだけで仕事を終わらせる気はないからな!
リベロがボールを繋いだときには灰島は後衛の守備からセットに飛びだしている。返球がネットから離れた。ボールの下に入りながら督修館のブロッカー陣がサイドに開いて布陣するのを周辺視で把握する。この状況になると欅舎はほぼサイド攻撃しか使わないというデータに基づいて向こうは動いているはずだ。
「ミドル入って!」味方ミドルブロッカーに灰島は怒鳴った。「タテB! あげます!」
タテのBクイック──コート中央からネット前へ縦に長いトスを通す。ミドルブロッカーとの練習時間が多くあったわけではないが頭には入っている。腕を振れば打ち抜ける場所にぴたりとボールを届けた。
一枚になったブロッカーの横を抜いて督修館コートにスパイクが決まった。
よし、通じる。手応えを得て灰島は一人頷いた。
灰島の連続サーブになる。サイドアウトになって下げられたのではつまらない。まだ続けるぞ──。
アップエリアの一番前に黒羽がでてきて試合を見つめていた。デビュー戦での灰島の堂に入ったワンラリーに驚いた顔をしている黒羽に念を届けるように、来い、と胸の内で灰島は強く思う。もちろんメンバーチェンジを決めるのは監督だが。──来い、黒羽。デビュー戦で爪痕残すぞ。
サーブ二本目。前に突っ込んだ一本目と狙いを変えて奥を攻める。エンドラインぎりぎりいっぱい。「アウト!」と督修館側でジャッジがあがったがレシーバーが一瞬早く飛びついていた。灰島自身もアウトだと思ったのでさわってくれたのはラッキーだ。
二本続けてサーブで崩す。「おいおいっ」「サーバーやべぇ」「誰!? 一年!?」コート内外でどよめきがあがった。
乱れたレセプションからまたライトにトスが託される。二枚ブロックがしっかりつくがクロスで抜けてきた。サービスゾーンから戻った灰島の守備範囲だ。思い切りよく床を蹴ってダイブしながら左手をとんっと床につき、身体をもう一段遠くへ飛ばして右手でボールをすくう。あがった、と思ったが、
「!?」
予想以上にボールが“重い”。ぱんっと手首をはじかれた。あらぬ方向へ飛んでいったボールとはまた別の方向に灰島も胸から滑り込んだ。
公式球は大学も高校も同じ五号球だ。しかし打ち込まれたボールの質量が違った。
なるほど……と、食らった感覚を刻みつけるように手首を押さえて灰島は起きあがった。
これでサイドアウトだ。灰島のサーブは終わり、得点した督修館にサーブ権が移る。
ベンチをちらりと見ると、交代ゾーンに駆け寄ろうとした野間を監督が手振りでアップエリアにとどめた。
まだやらせてもらえる。まだ見たくなったろ?
黒羽が投入されるチャンスを開くまで下がるわけにはいかない。
セット終盤までサイドアウトの取りあいが続いたもののなかなか欅舎がリードを奪えない中、黒羽が投入される場面が訪れた。気負った味方ウイングスパイカーのスパイクがアウトになり、コート上の仲間が天を仰いだ。終盤で痛い連続失点を喫したところでメンバーチェンジのホイッスルが鳴った。
黒羽が交代ゾーンで気合いを入れるように何度か腿あげジャンプし、四年生のウイングスパイカーにかわってコートに入った。
「気負うなよー……って言わなくても大丈夫か」
「頼むぞルーキー」
灰島のときよりあまり気遣われずに迎えられて「はいっ」と応える黒羽の顔つきは灰島が見たところしっかり気負っている。
黒羽とタッチを交わしに来た上級生がばらけてから最後に灰島がタッチに行った。打ちあわせた手を離さずそのまま掴み寄せ、
「緊張してるだろ」
顔を近づけて声をかけると「そりゃちょっとは緊張するわ。おまえのメンタルと一緒にされたら迷惑や」と黒羽が唇を突きだした。
大学の試合は四年間続いてもデビュー戦は二度はないからな。結果残せよ──と、発破をかけようとしたが、ふいに頭に響いた声があった。
“デビュー戦で失敗していきなり潰れる選手ってのはたまにいる”
何年も前のことなのに鮮明に思いだせる生真面目な声とともに、生真面目な小田の顔が浮かんだ。中学での黒羽のまともなデビュー戦と言える試合初日、黒羽はプレッシャーで失敗して……。
口酸っぱく発破をかけたいのはやまやまだったが、言いかけた言葉を我慢して飲み込んだ。黒羽の手を離し、励ましがわりに肩を叩いて別れようとしたときだった。
「灰島、いいトスくれや。デビュー戦で結果残すぞ」
黒羽のほうから言ってきた。
身体が打ち震えるような嬉しさに、灰島は口の端を吊りあげて笑った。
「誰に言ってんだよ。おれが同じコートにいるんだぜ。おまえにいいトスがあがらないわけがない」
欅舎のメンバーチェンジを受けて督修館も円陣を組んでいた。まずはサーブで黒羽を狙ってくるだろう。レセプション力がまだ低い下級生のウイングスパイカーをサーブで潰すのはサーブ戦略の常套手段だ。
スピードもパワーも高校とはレベルが一段階違うサーブにやはり黒羽が尻もちをつかされ、レセプションが乱された。
「セッター、割れてもミドル使うぞ!」
督修館ベンチから怒鳴り声が飛んだ。相手ブロックがサイドに開かずセンター寄りにとどまるのを把握し、だったら、と灰島はサイドにあげる先を探る。ライトからも味方スパイカーが入っていたが、そのとき反対側から「レフト!」という声が耳に飛び込んできた。
コートの真ん中で潰れた黒羽がもう助走してきていた。立ちあがりざまの助走だったが、やや無理な体勢からでも全力で入ってくる。
「来い灰島!」
灰島の手にボールが入る瞬間黒羽がダダンッと床を鳴らし、下肢を沈めて踏み切り体勢に入る。力強くバックスイングした両腕が滑走路を飛び立つ直前の航空機の翼によく似ている。どこにトスがあがるか見ることもなく、ただ“来る”と疑わずに黒羽が跳んだ。たたんだ身体が空中で翼を広げるように大きく伸びた。
全幅の信頼に応えてドンピシャの“いいトス”を灰島は飛ばした。
放物運動の頂点でボールがふわりと一時速度を落として空中にとどまる。再び速度をあげて落下をはじめた刹那、身体の回旋とともに豪快にスイングした黒羽の右手に完璧なタイミングでボールが入った。
よく目に焼きつけておけよ!──コートの内外で見ている連中に向かって灰島は心の中で高らかに言い放った。これから関東一部に風穴をあける“欅舎のルーキー”の一度限りのデビュー戦だ。見逃したら後悔するぞ!
*
裏の駐輪場に自転車を入れて正面玄関にまわる。五階建て鉄筋コンクリートの正面玄関の外壁には『
「今日カツ丼やったぞー」
パジャマ姿にスリッパ履きの寮生がにやにやしながら福井弁で言った。空腹で死んでいた目を「やった!」と
各自の部屋に荷物を放り込んで廊下の水道で手を洗ったら取るものも取りあえず食堂に行く。食堂の壁かけ時計で二十二時半。滑り込みセーフ。
夕食の提供は十九時半から二十時半と決まっているが、帰寮が遅い体育会系学生(しばしば理工系学生もいる)は申請しておけば二十二時半まで待ってもらえる。昔の寮生が寮監に頼み込んで切り開いてくれたサービスらしい。先達の尽力のおかげで親元を離れている体育会系学生もバランスの取れた食事に安価でありつける。自炊ではどうしても品数が減るのだ。
講義が終わった者から大学体育館に集まりはじめ、部員全員が揃うのが十八時。そこから全体練習がだいたい三時間。その後やりたい者は二十二時半の消灯まで自主練をしていく。灰島と黒羽は基本的に自主練を二十二時に切りあげ、大学から自転車で帰る。
欅舎大のキャンパスは西武新宿駅から東京西郊へ延びる西武新宿線沿線にある。寮はJR線の三鷹駅にあり、大学とは路線が違うので鉄道だとアクセスが悪いが、距離的には遠くないので自転車か路線バスなら三十分以内で通学できる。幹線道路をまっすぐ南下したのち東京の住宅地の入り組んだ道を縫って最短距離で自転車を飛ばしてきて二十二時二十五分に寮に帰り着く。
約三十名の男子学生の胃袋をまかなう食堂は大学の小教室くらいのアットホームな規模で、クリーム色のメラミン化粧板のテーブルが並んでいる。蛍光灯が一列だけ点灯しており、その下のテーブルでひと足先に夕食にありついていた二人の寮生が「おかえり」と顔をあげた。
二人の顔より先に二人の手もとの丼を目ざとく確認した黒羽が歓声をあげた。
「おえ~、ちゃんとしたカツ丼やが!」
「ちゃんとしてないカツ丼ってなんだよ……」
「大学のカフェテリアのやつってカツ丼とは違うもんやろ。卵とじのやつ」
「あれが世の中でいうカツ丼だ」
とはいえ
昔福井で食べたカツ丼だ。
“おれ、
と黒羽がメールで言ってきたのは推薦入試が終わった十二月中旬だった。
福井県出身者の県人寮というものが東京都内に数ヶ所ある。その一つ、高志寮の入寮条件は「福井県の高校を卒業し関東に進学した男子学生。大学院生、二浪までの浪人生も認める」。常時約三十名の寮生を受け入れているという。
田舎の豪農とはいえ黒羽は箱入りの坊ちゃん育ちだ。いきなり東京で独り暮らしをさせるのは親も心配だろう。へえ、まあいいんじゃないかという程度のテンションで灰島は話を受け取ったので、
“で、一緒に入らんか?”
と誘われたのは予想外だった。
灰島は福井の高校を卒業していない。福井にいたのは幼稚園までと、中学二年の冬から高校一年の冬までだ。自分が条件にかなうとは思っていなかった。欅舎大には学生寮はないので景星の寮をでたら独り暮らしをするか、父親のマンションからでも遠いが通えないことはないので、頭にあったのはその二択だった。
蓋をあけてみれば灰島もすんなり入寮できた。個別相談案件にはなったものの、出生地は福井で母方の実家は今も福井にあり、福井の中学は卒業して高校に入学しているということで、「福井出身者」と認められた。
清陰バレー部のOBはこれまでただの一人も在寮したことはなかったが、去年、部史上初めて二人の卒業生が関東の大学バレー部への進学を選び、この高志寮に入寮した。
棺野
「おっと、こっちのテーブル来んなや。今週はおまえら二人とは馴れあわんぞ」
トレーを持って同じテーブルにつこうとしたら大隈にしっしという手振りで追い払われた。
「欅のルーキーコンビに下剤盛ったらスタメンでだしてやる、って言われてるでな。今週のおれは刺客やと思え」
などと大隈が真顔で物騒なことを言うので黒羽が「ちょっ、まじやないですよね」と自分の味噌汁を疑わしげに覗き込んだ。
「まあ下剤は冗談やろけど」
と棺野が否定してくれたので黒羽がほっとしたが、
「体調がいいか悪いかくらいはおれのチームでも普通に訊かれるで、ま、そのつもりで」
「そのつもりでって……?」含みのある棺野の笑い方に黒羽が眉を八の字にした。「同じ寮に敵の選手いるでってそんなスパイみたいなことさせられるんすか?」
「こっちかっておまえらがこんなすぐ試合でれるとは思ってえんかったわ。先輩の面目立てろっちゅーんじゃ」
隣のテーブルにトレーを置いて座ったが、邪険にした大隈のほうからこっちのテーブルに肘をついて凄んできた。結局同じテーブルに座ったのと距離が変わらない。
「調子こいてんじゃねーぞ。土曜はこてんぱんにしてやるでな」
春季リーグは二週目を経て第四戦まで終わったところだ。三週目となる今週末、欅舎は土曜の第五戦で大隈の
灰島と黒羽はデビュー戦となった第一戦で会場を驚かせてから毎試合出場機会を獲得し試合に貢献している。欅舎は四勝0敗をキープ中だ。
黒羽と大隈のやりとりに素知らぬ顔をしながら灰島は丼を三分の一ほど掻き込み、空きっ腹に人心地がついたところで、隣のテーブルに目をやって言った。
「大隈さんも棺野さんも早くレギュラーに定着してください。そしたらこっちだって調子偵察するんでお互い様です」
「なっ……!? おっ、おまえはほんっとっ……!」
大隈が目を三角にしたり丸くしたりして口をぱくつかせ、
「ふふ……灰島節は健在やな」
棺野が肩を竦めて苦笑した。
怒っていいのか嘆いていいのかみたいに表情をくるくるさせていた大隈が「はあぁ」と最終的には天を仰いで脱力した。自分のテーブルに身体を戻し、しみじみとなにかを思いだすように頬杖をついて。「自分じゃ想像もしてえんかったのに、こんなふうに灰島に尻叩かれて、ほんとに春高行ってもたもんなあ……。男バレ入ったときは大学でもバレー続けてるなんて思ってもえんかったわ」
急に感傷的になった大隈を面白がるように見やりながらも棺野が目を細めて頷く。
「小田先輩が大阪でバレー続けてくれてるんも、
「あ、けど棺野はちょっと恨みあるんでねぇんか。末森さんが愛知行ってもて遠恋なってもたもんな」
「エンではあってもレンではないからな」
と急に棺野の声にドスがこもって大隈を怯ませた。「おまえらの関係はいつ進展するんや……」
「先輩たちも相変わらずなことやってますよねぇー」
話が他人事になったので黒羽が余裕ぶってあきれてみせた。「なんやと黒羽おめー、カツ一枚よこせや」「はあ? 嫌ですって。ちょっ……」
福井弁でわいわいと交わされる会話に囲まれ、清陰にいた頃と同じ空気にひととき浸りながら、灰島は福井の味がする飯を頬張った。
小田は一浪して大阪の大学に受かったので今年は棺野たちと同じ二回生になる。所属しているバレー部は関西二部。関東一部と比べたらレベルには格差があると言わざるを得ない。ただ、今もスパイカーとしてコートに立っている──スパイカーとして続けられる場所を小田自身が選んだのだ。関西二部とはいえ大学レベルだ。一六三センチの小田がウイングスパイカーでレギュラーを取るのは並々ならぬ努力と意志がなければ果たせない。
春高で臨時マネージャーをやってくれた末森
あの春高後、景星に転校したことに後悔はなかった。だが心残りがなかったかといったら別の話だった。あのとき温かく背中を押してくれた棺野たちが、最終学年となった翌年全国大会に行くことはできなかった。あの春高が最初で最後の棺野たちの全国大会出場になったことを考えれば、もう一度連れていきたかったという思いはあった。身体が二つあればよかったのに……黒羽と戦ったときに思ったように、両方のコートに自分がいられたら……。
でも、一年しか在籍できなかった清陰バレー部に、なにかを残していくことはできたということだろうか。
目指す“高み”は一人一人違っていいんだ。三年前の春高で同じものを目指して戦ったメンバーが、今はそれぞれの場所で、自分にとっての“高み”のために奮闘している。
もちろん、人はともかく自分は“一番上”を目指す。黒羽に関してもおまえが思う高さの目標でいいなんて甘やかすつもりはない。
それと……三村統にも。
「そういえば三村さんまだ飯食いに来てないんですか」
ごすんっ
灰島が尋ねたちょうどそのとき、食堂の戸口で妙な打撃音が聞こえた。
四人揃ってぎょっとして振り向くと、速乾Tシャツと短パン姿にチームリュックを背負った恰好の三村が脳天を手で押さえつつ鴨居の下で息を切らしていた。
著者プロフィール
- 壁井ユカコ【かべい・ゆかこ】
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沖縄出身の父と北海道出身の母をもつ信州育ち、東京在住。学習院大学経済学部経営学科卒業。第9回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞し、2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。「2.43 清陰高校男子バレー部」シリーズの他、『空への助走 福蜂工業高校運動部』『K -Lost Small World-』『サマーサイダー』『代々木Love&Hateパーク』「五龍世界」シリーズ等著書多数。
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