編集者のテマエミソ新刊案内
スリリングな読書体験が待ち受ける、圧巻の劇場&時代ミステリー。
物語の舞台は昭和八年の東京。
血盟団事件、五・一五事件が発生し、満州国の承認が認められなかったため国際連盟からも脱退。まさに、戦争の足音が忍び寄る時代です。
その最中に、歌舞伎の殿堂・木挽座の間近で有名右翼結社の大幹部と大阪島之内の芸妓が惨殺体となって発見。
警察の捜査は難航。江戸歌舞伎作者の末裔で歌舞伎界での信頼厚い大学講師・桜木治郎は協力を要請され、事件に巻き込まれていきます。
惨殺された男女の不可解な行動と関係性。その背景には、絡み合う人間関係と縺れ合う欲望があり……。
手に汗握りながら読み進めた担当ですが、すべての謎が解けた時、人間の深奥に潜んだ哀しい真実に、万感の想いがこみあげました。
ミステリーであると同時に、昭和八年の日本を克明に描くことで現代日本を照射する社会小説でもあり、芸の道を生きる者たちの業を描いた小説でもあり、運命に翻弄される悲恋を描いた小説でもあります。
ぜひお手にとって、この多面的な物語をたっぷりとご堪能ください。
(担当HI)
著者プロフィール
- 松井今朝子まつい・けさこ
- 1953年、京都市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了。歌舞伎の企画制作に携わった後、故・武智鉄二氏に師事し歌舞伎の脚色・演出を手がける。
1997年『東洲しゃらくさし』で小説デビュー。同年『仲蔵狂乱』で第8回時代小説大賞、2007年『吉原手引草』で第137回直木賞、2019年『芙蓉の干城』で第4回渡辺淳一文学賞を受賞。著書に、今作の姉妹編となる『壺中の回廊』のほか、『師父の遺言』『料理通異聞』などがある。