
内容紹介
マンハッタンに住むゴールド家のきょうだいは、幼いころ、近所で評判の占い師に会いにいき、自分が死ぬ日を告げられる。
しっかり者のヴァーヤが13歳、リーダー的存在のダニエルが1 1歳、好奇心旺盛なクララが9歳、末っ子サイモンが7歳の夏のことだ。
その後4人は生物学者、軍医、マジシャン、ダンサーと、それぞれの道に。
これは、予言された「あの日」に繋がる道なのか。
刊行後直ちにニューヨークタイムズ紙ベストセラー入りを果たし、ワシントンポスト紙で「注目の一冊」に、その他いくつものメディアでの年間ベストブックに選ばれ、世界33か国で出版された話題の書。
プロフィール
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クロエ・ベンジャミン (Chloe Benjamin)
サンフランシスコ生まれ。ヴァッサー大学を卒業後、ウィスコンシン大学で小説専攻のMFA(芸術修士号)を取得。 2014年発表のデビュー長篇“The Anatomy of Dreams”はエドナ・ファーバー小説賞を受賞、センター・フォー・フィクション新人賞候補作となる。2018年に発表された本作が長編2作目。現在、夫とともにウィスコンシン州マディソンに在住。
写真撮影:(c)Nathan Jandl -
鈴木 潤 (すずき・じゅん)
翻訳家。フリーランスで翻訳書の企画編集に携わる。訳書にショーン・ステュアート『モッキンバードの娘たち』(東京創元社)、シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』(共訳・早川書房)など。神戸市外国語大学英米学科卒。
【書評】死が際立たせる生の輝き
深緑野分
「みんないつか死ぬ」なんて、とっくに知っている。でももし自分の死ぬ日がわかったら、次の日から人はどう行動するのだろうか。
クロエ・ベンジャミン著『不滅の子どもたち』(鈴木潤訳)は、興味本位で占い師の女を訪れ、死ぬ日を予言されてしまった四人のきょうだいが、〝その日〟に取り憑かれながらそれぞれの人生を生きる物語である。舞台は、四人が子どもだった一九六九年から、二〇一〇年でひとまずのピリオドが打たれるまでのアメリカ――移ろいゆくニューヨークやサンフランシスコの風景や文化、歴史的事実が、豊かな筆致によって立ち上ってくる。
自分の死は世界滅亡の日と等しい。ディザスタームービーのように泣きわめいたり怯えて動けなくなったりするかもしれない。けれどもこの作品は違う。予告された死への恐怖と生への渇望をいたずらに単純化せず、人間は明日をどう生きるのか、真摯に丹念に描く。
短命を予言された人物は痛ましいほどの衝動と熱情で外の世界へ歩き出す。ある人物は眩(まばゆ)いパワーと才能を彗星のように煌(きら)めかせて生を駆け抜け、別の人物は「信じない」と嘯(うそぶ)きながら死の香りにつきまとわれる。二〇四四年まで生きるとされた最後の人物は、長いはずの人生を心配と不安に苛(さいな)まれ続けてしまう。
読者は、いつか来る〝その日〟と重い鎖で繫がれた四人の人生を追いかけ、生き残った苦しみに悶(もだ)える登場人物の孤独を、ともに味わう。そして死ぬ日を知っているのと知らないのとではどちらが幸福だろうかと考える。本を閉じ深い余韻に包まれながら、「予言」がもたらす言葉の呪縛と、それでもどう生きたいかを選択する心の強さを知り、死の気配の中に隠された、人が注ぐ愛と自由について、思いを馳せるだろう。死によって生の輝きを際立たせた傑作だ。
ところで、私自身はもしあと数年の命だとわかったら、きっとすごく焦って、ひたすら小説を書くだろうと思う。頭の中にある物語たちを外へ生み出せないこと、それが何よりの恐怖だから。
ふかみどり・のわき/作家
(「青春と読書」2021年5月号より転載)
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