インタビュー

平石さなぎ

平石さなぎ「“美しい負けざま”を描きたい」

対談

平石さなぎ辻村深月

辻村深月×平石さなぎ「人の心を打つメソッドはない」

小説すばる新人賞受賞記念エッセイ

フルベットな小説家人生

平石さなぎ 

 私の尊敬している警察官が言っていた。
「人生はすべて博打ばくちだぞ!」
 目に浮かぶ光景がいくつかある。空を舞うけんの紙吹雪、くぎの森にもてあそばれながら落ちていくパチンコ玉、回転するサイコロの1の目の、鮮やかな赤。私もたまにギャンブルをする。馬券を買ったり、玉を打ったり。小躍りした瞬間があれば、数分前の自分にしょうていを見舞ってやりたくなった瞬間もある。
 日常生活のなかでも、「これはもう、実質ギャンブルだ」と感じることがある。受験、就職、恋愛、友人、家族関係。どれも努力すればなんとかなる部分がある反面、やっぱり努力ではどうにもならない部分も存在している。そこにどれほどの時間と愛を注いでも、失うときは失ってしまう。運とかタイミングって意地悪だ。
 だから、「はっきりした未来は予想できない」。
 それでも、「たくさんの選択肢からひとつを選ぶ」。
 このふたつを繰り返すことが人生なら、やっぱり警察官の言うとおり、人生はすべて博打なのかも。
 小説もそうだ。誰かの人生をえがいた物語だから、どこかに〈け〉の瞬間がある。主人公が、おおきな決断をするとき。はっきりした未来は予想できないけど、たくさんの選択肢からひとつを選ばなきゃいけないとき。
 けれど不思議なことに、主人公が賭けに成功したからといって、物語がハッピーエンドを迎えるとはかぎらない。逆もしかりで、失敗したからといってバッドエンドになるともかぎらない。その敗北からうまれた景色が、思いがけないハッピーエンドを連れてきてくれることもある。
 人生も小説も博打も、私は得意かどうかわからない。人生に関しては一周目だし、小説に関しては新人賞に落ちまくってきたし、博打に関してはシンプルに負けてきた。好きだから続けている。
「人生はすべて博打だぞ!」
 私の尊敬する警察官、あらためりょう勘吉かんきちの言葉を胸に、これからも自分の「好き」を追いかける。その賭けに勝とうが、負けようが、目のまえにはきっと見たことのない景色が広がっている。それでいい。

「青春と読書」2026年1月号転載