内容紹介
第38回小説すばる新人賞受賞作。
小学四年生の吉沢癒知は、宗教団体「荻堂創流会」の近畿支部で「降り子(=創父の生まれ変わり)」として信徒から崇拝されていた。
幹部の母からは、神聖な身体を持つ者として食事や他者との触れ合いを厳しく制限されていたが、自分に寄せられる信徒の信仰心や日々の「儀式」に抵抗をおぼえはじめていた。
そんな癒知の前に現れたのは、家庭の事情で何度も転校を経験している渡来クミ。
引越し当初、近所を散策中に見かけた「めっちゃきれかった」癒知に興味深々。
ある日、学校のトイレで遭遇したことをきっかけに、ふたりは距離を縮めていく。
そして繋がりを持ったのは癒知とクミだけでなく、母親同士も親交を深めるようになり……。
プロフィール
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平石 さなぎ (ひらいし・さなぎ)
1997年、京都府生まれ。大阪府在住。『ギアをあげて、風を鳴らして』(「ギアをあげた日」改題)で第38回小説すばる新人賞を受賞。
インタビュー
対談
小説すばる新人賞受賞記念エッセイ
フルベットな小説家人生
平石さなぎ
私の尊敬している警察官が言っていた。
「人生はすべて博打だぞ!」
目に浮かぶ光景がいくつかある。空を舞う馬券の紙吹雪、釘の森に弄ばれながら落ちていくパチンコ玉、回転するサイコロの1の目の、鮮やかな赤。私もたまにギャンブルをする。馬券を買ったり、玉を打ったり。小躍りした瞬間があれば、数分前の自分に掌底を見舞ってやりたくなった瞬間もある。
日常生活のなかでも、「これはもう、実質ギャンブルだ」と感じることがある。受験、就職、恋愛、友人、家族関係。どれも努力すればなんとかなる部分がある反面、やっぱり努力ではどうにもならない部分も存在している。そこにどれほどの時間と愛を注いでも、失うときは失ってしまう。運とかタイミングって意地悪だ。
だから、「はっきりした未来は予想できない」。
それでも、「たくさんの選択肢からひとつを選ぶ」。
このふたつを繰り返すことが人生なら、やっぱり警察官の言うとおり、人生はすべて博打なのかも。
小説もそうだ。誰かの人生をえがいた物語だから、どこかに〈賭け〉の瞬間がある。主人公が、おおきな決断をするとき。はっきりした未来は予想できないけど、たくさんの選択肢からひとつを選ばなきゃいけないとき。
けれど不思議なことに、主人公が賭けに成功したからといって、物語がハッピーエンドを迎えるとはかぎらない。逆もしかりで、失敗したからといってバッドエンドになるともかぎらない。その敗北からうまれた景色が、思いがけないハッピーエンドを連れてきてくれることもある。
人生も小説も博打も、私は得意かどうかわからない。人生に関しては一周目だし、小説に関しては新人賞に落ちまくってきたし、博打に関してはシンプルに負けてきた。好きだから続けている。
「人生はすべて博打だぞ!」
私の尊敬する警察官、あらため両津勘吉の言葉を胸に、これからも自分の「好き」を追いかける。その賭けに勝とうが、負けようが、目のまえにはきっと見たことのない景色が広がっている。それでいい。
「青春と読書」2026年1月号転載
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