
内容紹介
蛙や蛇の言葉が聞こえる小学生の美苑は、大学教授の父と華道家の母と住むお屋敷の中庭で、小さい生き物たちの言葉に耳を傾けるのが日課だ
った。一方、人付き合いは苦手で空気が読めず、クラスに友達はほとんどいない。父の同僚だった児玉先生からイグアナの子供の飼育を託された美苑は、彼女に「ソノ」と名付け、充実した日々を送ってきた。しかし大学院生になった二十四歳のある日、母から突然、想像もしない驚愕の通告を受け……。
プロフィール
-
上畠 菜緒 (うえはた・なお)
1993年岡山県生まれ。岡山県在住。島根大学法文学部言語文化学科卒業。
「しゃもぬまの島」で第32回小説すばる新人賞を受賞。
インタビュー
上畠菜緒「相棒はイグアナ――異色の婚活物語で描きたかったこと」
書評
人間とはいかに“ヘンな生き物”であるか
大森 望
第32回小説すばる新人賞を受賞したデビュー長編『しゃもぬまの島』から四年。上畠菜緒の待望の第二作『イグアナの花園』が刊行される。架空の動物(中型犬サイズの馬)が主役だった前作に対し、今回の主役は爬虫類。前半ではアオダイショウ、後半ではイグアナが軸になる。
人間の主人公・八口美苑は、研究に没頭する植物学者で大学教授の父と、おそろしく厳格な華道の先生である母親との間に生まれた一人娘。小動物の声が聞こえる不思議な力を持つが、子供の頃から人付き合いが苦手で、友達がいない。小学四年生のとき、傷を負ったアオダイショウの『助けて』という声を聞き、父親の同僚の生物学者・児玉先生の手を借りて命を救う。やがて回復した彼女は、人間を「ヘンな生き物」と呼びつつも、美苑のかけがえのない友となるが……。
個性的な少女の成長を描く過去パート(全体の三分の一弱)を経て、小説は十四年後に飛ぶ。二十四歳になった美苑(=私)は、児玉先生の行動生態研究室に所属し、修士課程の大学院生として大型インコの言語学習に関する研究をしている。十四年前に児玉先生から託されたグリーンイグアナのソノと、父親が遺したアトリエに住み、平穏な日々を送る美苑。だがある日、母親に呼び出され、驚愕の通告を受ける。母の体に癌が見つかり、おそらく余命は半年。その半年の間に結婚相手を見つけろ。さもないとアトリエを失うことになる……。
というわけで、絶体絶命のピンチに陥った美苑の婚活大作戦がメインストーリーになる。ソノのアドバイスでマッチングアプリに登録し、研究室の後輩の指導を受けてプロフィールを書き直し、対人スキル向上のために研究室の飲み会に参加し――という涙ぐましい努力と爆笑ドタバタ劇は果たして実を結ぶのか?
美苑の婚活は、人間とは何か、家族とは何かを学ぶ過程であり、同時に人間とはいかに“ヘンな生き物”であるかを読者が発見する物語でもある。なんともユニークで心温まる爬虫類+ヒューマンコメディだ。
「青春と読書」2024年9月号転載
新着コンテンツ
-
インタビュー・対談2025年07月08日インタビュー・対談2025年07月08日
桜木柴乃「波風立てずに生きる器用さを、ちょっと残念だなと感じる大人に読んでほしい」
著者五十代の最後を飾る、集大成的な短編集である本作。仕事に対する現在の思いや、短編を書く面白さをうかがいました。
-
お知らせ2025年07月04日お知らせ2025年07月04日
すばる8月号、好評発売中です!
演劇界注目の劇作家・演出家ピンク地底人3号さんによる初の小説を掲載! 遠野遥さんの短期集中連載も最終回を迎えます。
-
インタビュー・対談2025年07月04日インタビュー・対談2025年07月04日
石井遊佳×藤野可織「魂を自由にする虚構の力」
ホラー愛好家を自認する藤野さんは石井さんの新作に詰まった四つの物語をどう味わい、そこに何を見つけたのか。
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
給水塔から見た虹は
窪美澄
2人の“こども”が少しずつ“おとな”になるひと夏を描いた、ほろ苦くも大きな感動を呼ぶ、ある青春の逃避行。
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
青の純度
篠田節子
煌びやかな「バブル絵画」の裏に潜んだ底知れぬ闇に迫る、渾身のアート×ミステリー大長編!
-
新刊案内2025年07月04日新刊案内2025年07月04日
情熱
桜木柴乃
直木賞受賞作『ホテルローヤル』、中央公論文芸賞受賞作『家族じまい』に連なる、生き惑う大人たちの物語。