インタビュー

書評

私たちは声をあげなければならない

吉田伸子

 読み進めるうちに、心の深い部分がぞわぞわとしてくる。同時に、タイトルであるプレデター=捕食者の意味が凄みを帯びてくる。
 本書のヒロインは、零細出版社でweb情報誌「スツール」の記者として働くあけかずだ。ある日、取材に向かおうとしていた彼女は、会社のオーナー兼編集長のかわから止められる。肥川からホログラムで見せられたのは、手の甲に鳥の刺青がある男の死体だった。
 その刺青は、初めて会う取材相手から目印だと教えられていたものであり、明海は密かに追いかけているストリートチルドレンに関する「ラダンの壺」の情報を、男から入手する予定だった。何故、肥川が? と訝る明海に、肥川は警察内部からの情報が入ったのだと答える。司法解剖の結果、男の胃の中からカプセルに入った未消化の紙片が見つかり、その紙片に「スツール」の誌名と明海の氏名、それにラダンの壺、という走り書きがあったのだ、と。
 死体の男の年齢と、自分に連絡してきた男の声が釣り合わない、と感じた明海は、自分の直感を信じ、刑事たちの来訪をぎりぎりでかわして取材先に向かう。
 明海を待ち受けていたのは、カササギと名乗る少年だった。明海は連れて行かれたカササギのアジトのような場所で、突然、謎の集団からの襲撃に遭う。カササギからサリナという少女を託された明海は自らも銃創を負いながら、なんとか脱出するのだが……。
 物語の舞台は、社会的な地位によって、AからGまで居住区をゾーン化されている近未来の日本。そこにあるのは、ゾーンごとの社会の断絶と、国家による徹底的な統制だ。その制度からこぼれ落ちてしまう国民は、棄民のように生きるしかない。
 フィクションなのに、日本の未来を突きつけられているようで、息苦しくさえなる。そんな未来を変えるために、今の今、私たちは声をあげなければならないのではないか。立ちあがる時なのではないか。そんな警鐘が伝わってくる一冊だ。

よしだ・のぶこ●書評家

「青春と読書」2023年8月号転載