内容紹介
時は戦国。茶々(淀殿)は幼い頃、住んでいた城を信長に落とされた。
父が自害に追いやられるも、生まれた時から共に育ってきた大野治長に守られ、逃げることができた。
治長は茶々を一生守ると誓い、茶々も彼にそばに居てもらいたいと願う。
その後、ふたりは柴田勝家の元に身を寄せたが、今度は秀吉に城を攻められ、茶々の母が自害する。
そして二度目の落城を経験した茶々は、秀吉に側室になれと言われてしまい……。
二度の落城。許されぬ裏切り。家康の脅威。
運命に翻弄されながらも、互いを思い合う茶々と大野治長の姿を描く、歴史恋愛小説。
プロフィール
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佐藤 雫 (さとう・しずく)
1988年香川県生まれ。「言の葉は、残りて」(「海の匂い」改題)で第32回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著書に『さざなみの彼方』『白蕾記』『花散るまえに』『行成想歌』『残光そのにありて』がある。
刊行記念インタビュー
書評
茶々と治長の愛の行方
細谷正充
第三十二回小説すばる新人賞を受賞した佐藤雫の『言の葉は、残りて』は、鎌倉幕府の三代将軍・源実朝とその妻の信子の人生に託して、夫婦の愛情と言葉の力を描いた、素晴らしい作品であった。そして第二長篇となる本書は、戦国時代を題材にしている。豊臣秀吉の側室になった茶々(淀殿)と、彼女に尽くした大野治長の生の軌跡を活写した、やはり素晴らしい作品なのだ。
波乱の人生を歩んで、秀吉の側室になった茶々は、歴史上の有名人だ。大坂夏の陣で彼女が、息子の秀頼と共に散ったのは、周知の事実であろう。また茶々の乳母子であり、最期のときまで彼女に仕えた大野治長も、戦国時代の注目すべき人物である。
秀吉亡き後に豊臣家を継いだ秀頼が、茶々と治長の密通により生まれた子だという噂があるが、作者はこれを巧みにストーリーに織り込む。秀頼だけでなく、その前に生まれて早世した鶴松も茶々と治長の子として、濃密なストーリーを創り上げているのだ。密通や不義の子に対する、迷いや怯えに苛まれる茶々と治長の心だけでなく、やがて秀吉と正室の寧の想いも見えてくる。息苦しいほどの人間ドラマに圧倒されてしまうのだ。関白秀次とその妻子たちの悲劇を、秀吉の想いと絡ませたところも優れていた。
さらに作者の小説技法が、随所で光っている。たとえば、茶々と治長が手を携えるシーン。一度目の落城に続き、二度目の落城のときも、茶々は治長に手を引かれる。しかし二度目のとき、治長の手が血で濡れていたことに怯えるのだ。ここから、人は否応なく変わっていくのだという、やりきれない事実が伝わってくるのである。その一方で、治長に変わらぬ友情を抱く真田信繁(幸村)の存在が、一服の清涼剤になっていた。
時代の流れと、権力者の恣意に翻弄された、茶々と治長の愛は切ない。だから夢中になって読んだ。本書は、堂々たる戦国小説であり、嫋々たる恋愛小説なのである。
ほそや・まさみつ●文芸評論家
「青春と読書」2022年6月号転載
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