
内容紹介
とことん多趣味で、娘大好き!
デビュー25周年。PUFFY大貫亜美、初の個人エッセイ集。
小学校2年生の時、母が作ってくれた手提げバッグの刺繍にすさまじく感動! 以来、母を手芸の師と仰ぎ……(「母と娘と、暗い趣味」)
小さい頃からずっと、丸いものとふわふわなものが大好きで、ウサギをこよなく愛してきた。高校生のある日、ペットショップで衝撃の出会いが……(「ウサギ大好き倶楽部」)
娘がお友達と盛り上がっていたのをきっかけに自分もハマったK-POPアイドル。「韓流ってね、思いっきりハマった方が楽しいよ」というママ友の言葉にリミッターが外れて……(「アーミー、愛してます」)
娘はいつも一番聞きたい言葉をくれる。一番の理解者に育ってくれた。「子育て法を聞いてみたい」と言ってくれる人もいるけれど……(「マイ・フェア・小狸」)
父や叔父の影響で幼い頃から釣りが好き。大人になって、奥田民生さんとの出会いからバス釣りにハマり、とうとう小型船舶免許を取ることに……(「ハマらない理由がない」)
などなど、全51編を収録。
月刊誌「小説すばる」7年間の連載をギュギュッと一冊に!
プロフィール
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大貫 亜美 (おおぬき・あみ)
1973年東京都生まれ。歌手。96年、奥田民生プロデュースによるシングル「アジアの純真」で、吉村由美とともにPUFFYとしてデビュー。その後、「これが私の生きる道」「サーキットの娘」「渚にまつわるエトセトラ」など、次々とヒットを連発。全米No.1アニメチャンネルである「カートゥーン・ネットワーク」にて、PUFFYを主人公にしたアニメ番組「ハイ! ハイ! パフィー・アミユミ」が世界110カ国以上で放送されるなど、日本のポップ・アイコンとして、世界を舞台に活動中。
【エッセイ1編をまるごとご紹介!】
娘小狸のお誕生日
東京は3月なのに雪が降りました。その日はちょうど用事があって表参道にいたんです。そしてお寺の境内を見ると桜がちらほら。しかし空を見上げると雪。3月なのに雪って……。みんな衣替えし始めてる時やん。凍えながら用事を済ませて思いました。「韓国に帰りたい」と……。
2018年3月。
実はわたしには前歯のよく似た娘がおりまして、名は娘小狸と申します。もちろん正式な名前ではございません。わたしが「大貫」という名字のため、小学生の頃、学校の机に貼られたお名前シールの「大」の真ん中にいつの間にか「、」が描かれ、「大貫がたぬきになった〜!」という出来事があったからか、わたしはなんとなくたぬきに愛着があり、娘が小さい頃は豆狸と称してSNSなどでお話に出させていただいておりました。この連載もそれがあってこその『たぬきが見ていた』なのです。そんな豆狸は成長していつしか小狸になり、見ず知らずの子供にもとても優しく、酔った大人にも寛容な心の持ち主に育ちました。そして娘小狸は今年の3月で15歳になったのです。毎年頭を悩ませる一人娘のお誕生日。誰と過ごしたいかな、どんなお誕生日会をしたいかな、どんなプレゼントが欲しいかな……などなど2月あたりからわたしは焦りだすのです。小さい頃はクラスのお友達とそのご家族、みんなまとめてマザー牧場からのイチゴ狩りバスツアー(お弁当とおやつ付き)を敢行。スノーボードをやり始めた年からはスノボ仲間とスノボ旅行からの宿泊先でのパーティー。毎回、来てくれたお友達にお返しを用意して、バスの道中では子供たちが飽きないようになぞなぞ大会を催し、パーティーではビンゴや娘小狸クイズを考え、イベントサークルでも作ろうかなと思うぐらいの企画力を発揮いたしておりました。そんな派手なパーティーを数回過ごした娘小狸はK-POPにハマり、憧れの地は雪山から韓国もしくは新大久保に変わりました。そこで母は考えあぐね、娘小狸が大好きな親戚・友達を集め、目隠しをして新大久保のチキン屋さんにサプライズで連れて行くことを計画。わたしの友達に全面協力してもらい、その時娘小狸が好きだったK-POPアイドルのお面を作り、到着と同時に目隠しを取るとそこには娘小狸の好きな人しかいない空間で全員が指ハートを作ってお祝いしてくれる、という夢のような光景が広がっていたのです。娘小狸はとても喜んでくれました。今までのお誕生日で一番嬉しかった、と言ってくれました。それが去年のお誕生日です。そんな去年を超えなければいけない今年の誕生日……もうネタは尽きたかのように思われたところに、実現したら嬉しくてウレションしちゃうんじゃないかなわたしだったら絶対しちゃうな! というフラッシュアイデアが生まれました。
【書評】アイドルとアーティストの間を突き進む唯一無二の存在
評者・トミヤマユキコ(マンガ研究者、大学講師)
本作は、パフィーの向かって右の方、亜美ちゃんこと大貫亜美さんのエッセイ本だ。一人娘の「小狸」が大きくなり、意外にもまだ出場していなかった紅白歌合戦に結成20周年で呼ばれ、韓流アイドルにハマり、コロナ禍に突入する……約七年間の暮らしぶりがたっぷり。そのおかげで、ファン宛の私信に留まることなく、日本のカルチャーシーンを振り返る手がかりとしても機能している。
中でもさくらももこさんが亡くなった時の文章が印象的だ。一般読者でさえショックだったのだから、面識があった人間にとっては筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。しかし、「今言葉にしておくべき」だと、さくらさんとの出逢いから別れまでが綴られていく。
初対面の時は連絡先を聞くことすらできなかった亜美ちゃんが、念願叶って再会するや、アニメのエンディング曲を歌わないかとオファーされる。もちろん答えはイエスだ。「『よかった〜! パフィーだったらポンポコリンみたいなバカな感じわかってくれると思ってたんだ〜! 嬉しい〜!』と言って一緒にバカらしいものを作るという小2の夏休みの宿題みたいな約束をした」……大好きな人とバカがやれるなんて最高だ。しかし、だからこそ、別れが重くのしかかる。「そうなのだ。わたしもももちゃんも一児の母なのだ」「もちろん事実は受け止めるし、何なら親しい人の死は経験値が高いほうなので慣れっこなはずだった。でも無性に嫌だった」……お互いクリエイターであり母であるからこその思い。あの頃、たくさんメディアの報道が出たけれど、こんな風にさくらさんのことを書いた人はいなかったのではないか。
この他にも、亜美ちゃんだからこその率直で地に足の付いた言葉にいっぱい触れられる。ところで、パフィーを見るといまだに「亜美ちゃん&由美ちゃん」と呼んでしまう。アラフィフだろうが関係ない。アイドルとアーティストの間を突き進む唯一無二の存在だもの。リスペクトを込めて、永遠にちゃん付けで呼ばせて欲しい。
(「青春と読書」2021年6月号掲載)
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