内容紹介
とある惑星。未開発地帯の権利を購入し、理想の国を作る――。共通の目的のもと、選ばれし5人は人間型の巨大歩行工作機、ゴリアテに乗り込むことに(「ガングリオ山脈の垂直壁」)。これまでの椎名氏のSF・冒険小説に登場し、その独特の世界観を体現してきた「北政府」の元傭兵・灰汁(あく)も登場し、終末戦争の荒廃した世界で新たな相棒と暗躍する。独自の言語感覚で紡ぐ全6話と、あとがきにかえて、書き下ろし(旅先で出会った「懐かしい風景」)を収録。
プロフィール
-
椎名 誠 (しいな・まこと)
1944年東京生まれ、千葉育ち。東京写真大学中退。流通業界誌編集長時代の 76年、目黒考二らと「本の雑誌」を創刊、初代編集長に。79年、エッセイ『さらば国分寺書店のオババ』で本格デビュー。89年、『犬の系譜』で第10回吉川英治文学新人賞、90年『アド・バード』で第11回日本 SF大賞を受賞。他の著書に『武装島田倉庫』『わしらは怪しい探検隊』『岳物語』『大きな約束』、『失踪願望。』シリーズほか多数。
対談
書評
人間だけではない世界の冒険旅行
前川仁之
椎名さんのSF世界は「生態系への意志」とでも呼ぶべき生命観につらぬかれているように思う。そこでは人間と、機械人間系の方々と、その他の生物と、ざっと三種類の存在たちが活躍する。半世紀に及ぶ作家生活の果てに産まれた本作もそうで、現実社会がAIとそれに合わせた人間中心ののっぺりした生態系へと囲い込まれてゆくかのごとき今日、この生命観はそれだけで貴重な倫理ではないか。
本書は連作短編集で、第二話「天竺屋奇譚」からの五作は、『武装島田倉庫』で初登場した古株アンチヒーロー・“灰汁”(人名です)の逃避行が主軸をなしている。つまり先行作品群とつながっているのだが、未読でもなんの問題もなく楽しめることうけあいだ。
なにしろ第一話「逢海人のテーブルダンス」が導入部として完璧な作品なのだ。僻地紀行のふんいきで幕をあける本作は、椎名SFが初めてという人にとって、いわばオリエンテーションの役割を果たす。“産子工学的に作られた人間”であるイグノイドやNR=ノウ・リアルのヒトビト。飢えた赤犬。そして小さな人間“逢海人”。これらの存在たちの間でなされるコミュニケーションが時に笑いを、時に叙情を、時にこの世界への鳥瞰的メタ認知をもたらす。うつくしい短編だ。
“灰汁”と機械人間“ガギ”変則バディものである「ニンゲン証拠博物館」(第五話)では、三人称一元から一+α元まで拡張されたような視点の移ろいが、“人間率”というテーマに呼応してスリリングな効果をあげている。〈おれと旅をしている間にお前は知らず知らずのうちに相当あちこち人間化している筈なんだ〉と、こんな言葉のとびかう小説はおもしろいに決まっているのである。
さらに、あとがきでは旅行家・椎名誠が登場し、その小説世界のリアリティのヒントを教えてくれるのだ。そこまで読み終えた人はきっと、もうしばらくは人間率を一〇〇%近くたもって生きてみよう、と元気づけられていることだろう。
まえかわ・さねゆき●ノンフィクション作家
「青春と読書」2026年3月号転載
新着コンテンツ
-
連載2026年10月30日
連載2026年10月30日だれにも僕らを見つけられない
大前粟生
春井とひっしーが出会った長髪の男子は鮎太と名乗った。24時間営業のコインランドリーで、住み込みで働いているという。
-
インタビュー・対談2026年10月26日
インタビュー・対談2026年10月26日星読み師yuji「子どもの星を読む」鑑定座談会
1万人以上を鑑定してきた人気占星術士・yujiさん。実際の鑑定会の様子から、星読みの奥深さをお楽しみください――
-
インタビュー・対談2026年10月26日
インタビュー・対談2026年10月26日名取佐和子「心が広くなるような物語を」
小さなマンションを舞台に、管理員をつとめる青年が住人との交流を通じて小さな一歩を重ねていく本作。著者が込めた思いを伺いました。
-
インタビュー・対談2026年10月20日
インタビュー・対談2026年10月20日京極夏彦「ハラスメントや権力勾配を排除しないと、誰もが笑える“馬鹿な”笑いは生まれません」
『虚言少年』が時を経て続編として帰ってきました!読めば毎日が楽しくなる、痛快エンタメ非・青春小説の成り立ちについて京極さんにうかがいました。
-
インタビュー・対談2026年10月20日
インタビュー・対談2026年10月20日「浮雲心霊奇譚」完結記念 神永 学×上條一輝「全部出し切れ」
「浮雲心霊奇譚」シリーズの完結を記念して、ホラー界の新鋭・上條一輝さんとの対談が実現!
-
インタビュー・対談2026年10月19日
インタビュー・対談2026年10月19日佐藤賢一×柳原伸洋(ドイツ現代史研究者)「歴史的想像力を羽ばたかせて」
監修者として本書に関わった東京女子大学教授の柳原伸洋さんと佐藤さんのお二人に、それぞれの立場から語っていただきました。
