すばる文学賞受賞記念エッセイ

灰汁

更地 郊

 話作りはカレーと同じ、どんな具材を入れようが肝心のルーでまとめれば良し、と中年漫画家とその息子の日常を描いた室井大資氏の傑作漫画『秋津』で読んだ。じゃあ拙作『粉瘤息子都落ち択』のルーは何だったのか。鍋に投下したっけか。
 昨夏、公募に落選してからはSFLストリートファイターリーグかMリーグの放送をPC画面分割で視聴、残り半分でじゃんたまの対局に明け暮れた。十一月、四着ラスが重なり、段位もじゃんごうからじゃんけつに降級。麻雀の不条理からの逃避で再び文章と向き合うことに。ポメラを久々に開くも、だってよ……シャンクス……ネタが―腕も―状態。一旦、直近で関心あるものを羅列。麻雀小説、牌譜作れない、無理リジェクト。SF6、粉瘤、ポイ活、金欠、ヴァンダリズム……採択アクセプト。こんなノリで具材を鍋にぶっ込み、前作の逆張りを基調にして書くことにした。で、一月の終わりには悪臭を帯びた湯気やら、ケミカルな灰汁あくが鍋内で躍っていた。味見はしなかった、怖くて。
 応募期限まで三週間をきった頃、ポメラが逝った。充電端子が飲み水に浸っていたらしく、本体へ挿した途端に画面がブラックアウト、最後に白いグリッチが走り、臨終。過失致死。幸いにもデータはSDカードに保存しており、PCに移せば作業できたが、この時期に愛機の死とは滅入る。大体、終盤の構想はおろか作品名も未定という体たらく、間に合わん。気乗りしないが応募サイトから応募用テンプレファイルを取得、文を貼り付けた。─美しい。縦書き明朝体だと小説のよう。ポメラでは横書きゴシック体表示だったから尚更。なのでこれは小説なのだと思い込むことにした。もはやルッキズムだが、そのお陰で残りの文章が出来た。
 そして十一月の麻雀の負け分を返済する豪運の自摸つもにより、変な題名で鍋から皿に注がれ、人前に出された。商品化もするらしい……。で、ルーは何だった? あの灰汁が奇跡的にカレー風味に? よく分からないですが、まあ灰汁って健康に良い成分も入っているらしいので、抵抗なければ是非すすってください。

「青春と読書」2026年1月号転載