
内容紹介
靴職人を目指す高校生の歩橙(あゆと)は、同じ学年の青緒(あお)に恋心を寄せている。彼女はいつもボロボロのローファーを履き、友達も作らず、ひとりぼっちで笑顔を見せたことすらない。
歩橙はそんな青緒に手作りの靴をプレゼントしようと思い立つ。
「僕が作ります。あなたが胸を張って笑顔で歩きたくなる靴を」
不器用に、真っ直ぐに、恋する気持ちを靴に込めようとする歩橙。そのひたむきな想いに触れて、青緒も次第に彼に惹かれてゆく。
しかし二人を試練が襲う。彼を愛おしいと思う気持ちが、青緒の身体に耐えがたい痛みを与える不思議な病を発症してしまったのだ。
歩橙の言葉が、愛情が、してあげることのすべてが、青緒の身体を焦がすように傷つけてゆく……。
「わたしはただ、好きな人を素直に好きって思いたいだけなのに。
ただありふれた普通の恋がしたいだけなのに……」
プロフィール
-
宇山 佳佑 (うやま・けいすけ)
脚本家として、『スイッチガール!!』『信長協奏曲』『君が心をくれたから』、映画『今夜、ロマンス劇場で』などを執筆。著書に『ガールズ・ステップ』『桜のような僕の恋人』『君にささやかな奇蹟を』『この恋は世界でいちばん美しい雨』『恋に焦がれたブルー』『ひまわりは恋の形』『いつか君が運命の人 THE CHAINSTORIES』などがある。
わたしたちの恋っておとぎ話みたいだね。
あなたといると身体が焦がれて痛くなる。
あなたがいないと心が涙で痛くなる。
ほかの誰かとなら、こんなに傷つくことはないのかな。
でもね、たとえそうでも思っちゃうんだ。
それでもやっぱり、あなたがいいって……。
第一章 空色の笑顔
「あなたの足に触らせてください!」
夕陽色に輝く放課後の廊下に夏目歩橙の声が響き渡ると、それまで楽しげに談笑していた生徒たちが驚きの表情で振り返った。突然の変態の登場に辺りは異様な空気に包まれる。興味津々の様子でこちらを見ている男子生徒。何事だと眉をひそめる真面目そうな女子生徒。そんな視線を一身に集め、歩橙は身体を直角に折り曲げる。そしてもう一度、あらん限りの声で叫んだ。
「どうしてもあなたの足に触りたいんです!」
特殊性癖を告白された女の子は当然のことながら困惑している。
真っ白な頬がだんだんと血の気が引いて青色に変わると、ようやく生徒たちの注目を集めていることに気づいたらしい。今度は顔を真っ赤にして、陽光に照らされたセミロングの黒髪を振り乱しながら頭を激しく右左に振った。絶対絶対絶対にイヤ! とでも言いたげな様子だ。
しかし歩橙はそれでもめげない。
「どうしても、どぉぉぉしても、あなたの足じゃなきゃダメなんです! だってあなたは――」
ごくんと唾を飲み、彼女に顔を寄せた。
「あなたは僕のシンデレラだから!」
バチン! と黄色い火花が目の中で弾けた。ビンタをされたのだ。
新着コンテンツ
-
連載2025年06月15日連載2025年06月15日
【ネガティブ読書案内】
第43回 伊良刹那さん
「読書する気が起きない時」
-
お知らせ2025年06月06日お知らせ2025年06月06日
すばる7月号、好評発売中です!
浅田次郎さんのエッセイから始まる特集「戦争を書く」は小説、エッセイ、論考12本からなる大ボリューム!
-
新刊案内2025年06月05日新刊案内2025年06月05日
ティータイム
石井遊佳
なぜか笑えて、どこか怖い。奇妙奇天烈な小説を4篇収録した、約5年ぶりとなる待望の新作。
-
新刊案内2025年06月05日新刊案内2025年06月05日
ポピュリズム
堂場瞬一
社会派小説の旗手が提示する、有り得るかもしれない「未来」。
-
インタビュー・対談2025年06月03日インタビュー・対談2025年06月03日
石井遊佳「悲惨な物語を書きながらでも、どこかでボケたい」
自由な発想と巧みな文章世界で読者を魅了した石井遊佳さん。その発想、執筆の背景にあったものは。
-
お知らせ2025年06月02日お知らせ2025年06月02日
小池水音さん『あのころの僕は』が第13回河合隼雄物語賞を受賞!
小池水音さん『あのころの僕は』が第13回河合隼雄物語賞に決定しました!