内容紹介
【推薦の声、続々!】
●滋賀は滋賀でも修羅の滋賀。その琵琶湖(マザーレイク)は真作(ホンモノ)か?/宮島未奈さん(作家/『成瀬は天下を取りにいく』)
●純愛で哲学でヤンキーバイオレンスコメディで、そして最後は『ねじまき鳥クロニクル』。こんな小説、読んだことない。傑作!/東浩紀さん(作家・哲学者)
●人生は祭りだ。滋賀×スニーカー×ヒップホップ×ヤンキー青春小説/大森望さん(翻訳家・書評家)
時価約六億の値をつけた伝説のスニーカー『火喰鳥(キャサワリー)』。だが生み出した天才シューズデザイナーの深海温哉は、突然この世を去った。
亡き友の故郷・滋賀を訪れた佐治薫が出会ったのは、温哉と瓜二つの顔を持つ双子の弟、行哉。彼はスニーカー贋作で裏社会を渡り歩くギャングチームのリーダーだった。
二人は手を組み、違法スニーカーを巡る巨額の犯罪ビジネスに身を投じながら、温哉が生前最後に構想した幻のキックスの完成を目論む。
友人の死の真相を追い求める中で、薫はいつしか土地に隠された歴史の暗部──血と暴力に彩られた秘密の領域へと踏み込んでゆく。
愛を取り戻すため、贋作で滋賀から世界を掴み取る、反逆の”純愛”小説。
プロフィール
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天沢 時生 (あまさわ・ときお)
滋賀県近江八幡市安土町出身。2018年「ラゴス生体都市」で第2回ゲンロンSF新人賞、19年「サンギータ」で第10回創元SF短編賞を受賞。著書に『すべての原付の光』がある。
対談
『キックス』刊行記念対談 天沢時生×小川 哲「ダークサイドの滋賀を突き抜ける」
書評
人生は祭りだ。滋賀×スニーカー×ヒップホップ×ヤンキー青春小説
大森 望
短編集『すべての原付の光』で鮮烈な単行本デビューを飾った新鋭・天沢時生(1985年、滋賀県近江八幡市生まれ)。その第一長編『キックス』は、滋賀から天下を取りにいく話である――とか書くと「成瀬あかりかよ!」とツッコまれそうだが、成瀬が歩くのが陽の当たる大通りなら、本書の目標はダークサイドのてっぺん。『男一匹ガキ大将』的なバンカラからゾクとヤンキーを経てギャングスタ・ラップに至る不良文化に“神のキックス(スニーカー)”を授けて、頂点へと駆け上がる。
主人公の大学生・佐治薫は、バイト先のカラオケ店で知り合った深海温哉と映画を通じてマブダチになる。吉祥寺のスニーカー店に勤めていた温哉は、サイファー(ナイキみたいな人気ブランド)とのコラボ企画コンペで優勝したのをきっかけに、天才シューズデザイナーとして世界を席巻。彼のキックスの試作品には5億8000万円の値がつく。しかし温哉は、オリジナリティなんかくだらない、どんなにデカい噓だって、吐き通せば本当になると言い放つ。そんな温哉の言葉をライターとして世界に伝える薫。だが、二人の蜜月は温哉の自殺で唐突に幕が引かれる。
小説のテーマは偽物と本物。葬儀のため温哉の郷里の近江八幡市を訪れた薫は、湖東エリアのバイカーギャングチーム、『霊車会』と出会う。彼らを統べる『キング』は、凄腕のキックス贋作師にして、温哉の双子の弟、深海行哉だった。
「思い出もノスタルジーも要らねえ。置き去りにしろ」「神もビビらせるヤバいスピードで!」とキングに活を入れられた薫は、「贋作を真作に変える。愛をとりもどすのだ」と宣言し、温哉の偽物である行哉と組んで贋作商売に乗り出す。
と、ここまでが全5章のうちの第1章。小説は、時に即物的、時にエモーショナルなリリックを個性的なフロウで刻みながら、破滅(“全部滅茶苦茶になって頭はパー”)に向かって、祭りの熱狂に向かって突き進む。作中ではフェリーニ『8½』の台詞「人生は祭りだ。共に生きよう」が引用されるが、これは令和の『明日に向って撃て!』かもしれない。
●翻訳家・書評家
「青春と読書」2026年4月号転載
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