担当編集より

婚約者と別れた30歳のルースは、母親からの頼みで実家に戻り、しばらく一緒に暮らすことにした。大学教授の父はアルツハイマー病で、物忘れがひどくなりつつあったのだ。高校教師だった母は定年を迎えて臨時教員をしている。父は書きためていたノートを見せてくれたが、それは父から娘への手紙のかたちになっていて、ルースがごく幼い頃から記されていた。
父は日付を勘違いしたり、成績評価を忘れたりしたため、学部長から講義を持つことを止められて不機嫌になっていた。そんな折、父の助手だった若い男性からルースに電話があり、大学構内で父に講義をさせることを提案される。院生たちからの希望もあり、研究室や教室を間借りして、父のために本物そっくりの状況をつくり出したいというのだ。学部長から父をキャンパスで見かけたら警察に通報と言われているなか、ルースたちはこの計画を実行しようとするのだが……。
重々しい現実を、みずみずしく軽やかなタッチで描いて注目された話題の長編小説。

「ささやかで人間的で深々とユーモラスなディテールの積み重ね」──ミランダ・ジュライ