
内容紹介
1619年、アルサは魔女裁判にかけられていた。
1942年、ヴァイオレットは、望まぬ妊娠と婚約に人生を奪われていた。
2019年、ケイトは恋人のDVから逃れ、大伯母の遺した屋敷に隠れていた。
身体を、運命を、自由を、取り戻せ!
「魔女」と呼ばれた一族の女たち。暴力と不条理からの解放を求めた彼女たちの戦いが、いま始まる。時代の異なる三人の女性の視点で描かれた、英国で25万部超の鮮烈なデビュー長篇(原題 Weyward)。
「時を越えた女たちの連帯が強く生きろと鼓舞する」—宇垣美里さん(フリーアナウンサー・俳優)
プロフィール
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エミリア・ハート (Emilia Hart)
オーストラリア、シドニー生まれ。ニュー・サウス・ウェールズ大学で英文学と法学を学んだのち、シドニーとロンドンで弁護士として働く。2023年に本作『ウェイワードの魔女たち』でデビュー。ニューヨーク・タイムズのベストセラーに入り、同年Goodreads Choice Awardsの最優秀デビュー小説賞と最優秀歴史小説賞をダブル受賞。
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府川 由美恵 (ふかわ・ゆみえ)
神奈川県出身。主な訳書にR.A.サルバトーレ「アイスウィンド・サーガ」シリーズ、C・ボグラー『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』、C・マッキャリー『上海ファクター』、B・ハーパー『探偵コナン・ドイル』など。
書評
魔女のお通りだよ、道を開けな
宇垣美里
たった100年前、この国では結婚すれば女は無能力者とされ、自分の財産を管理することも許されなかった。現在においてもSNS上で男性芸能人がファンからの出産を怖がるメッセージに対し、「旦那様に無痛(分娩)おねだりするか」と返すような国だ。このような現状を生きていると、まだまだ私たち女は男性と同等な人間として認められていないのだなあと途方もない絶望にのまれ、時折全てを諦めてしまいたくなる。それでも、『ウェイワードの魔女たち』を読んで削られ続けた闘志がふつふつと再燃するのを感じた。私たちは無能力者なんかじゃない。しいて言うなら“魔女”です。
2019年のロンドン、恋人からの支配的な暴力に疲れ切ったケイトは、大伯母から受け継いだ山奥にあるウェイワードのコテージに逃げ込んだ。やがて近所で己の一族についての不思議な噂を耳にしたケイトは、その謎を探るべく大伯母や一族の過去について調べていくうちに、思いがけない事実を知ることになる。
5世紀にわたり、世代の異なる3人の女性の人生と受け継がれていく力を描いた本作。彼女たちを取り巻く豊かな自然描写の瑞々しさにうっとりする一方で、各々を襲う女であるがゆえの不条理は決して過去のものではないからこそ胸に突き刺さる。何度、私に物語の中に入る力さえあれば彼女たちを絶対ひとりになんかしないのに! と唇を嚙みしめたことか。魅惑的なマジックリアリズムと骨太な歴史小説、そしてフェミニズムが掛け合わさって倍増した魅力にページをめくる手が止まらなくなった。
彼女たちは支配しようとする男たちに傷つけられ踏みつけられようと、自分らしく生きていくために立ち上がり抗い続ける。私たちは強いんだ、とその生き様で語り掛けてくるように。自分の後に続く者たちへの思いと、時を越えた連帯は読者たる私の心をも鼓舞した。
先人たちが道を切り拓き繫いできたこのバトン、落としてなるものか、そう勇気が湧いてきた。私はひとりじゃないから負けないし、未来は絶対に明るい。
「すばる」2024年7月号転載
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