内容紹介
一四〇年の歴史を誇る全国紙・日本新報が発行を停止した。世間の新聞離れに歯止めがかからず、経営改善の努力も虚しく倒産してしまったのだ。
同僚たちが次の就職先を模索するなか、社会部の記者・南康祐にはある画策があった。それは志を同じくする同僚と、日本新報の後継としてネット専門メディア「日新ネットS」を立ち上げることだった。
新聞社やテレビなど「オールドメディア」との確執、人員・人材不足、記者クラブ問題、広告収入の減少……立ちはだかる諸問題を乗り越え、ネット専門メディアとして成立させることができるのか。
『警察(サツ)回りの夏』『蛮政の秋』『社長室の冬』に続く〈メディア〉シリーズ、真の完結編!
プロフィール
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堂場 瞬一 (どうば・しゅんいち)
1963年生まれ。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年、野球を題材とした「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。スポーツ小説のほか、警察小説を多く手がける。「ラストライン」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズなど、次々と人気シリーズを送り出している。ほかにメディア三部作『警察回りの夏』『蛮政の秋』『社長室の冬』、『宴の前』『弾丸メシ』『ホーム』『幻の旗の下に』『デモクラシー』など著書多数。
インタビュー
書評
堂場瞬一が見たメディアの行く末
内藤麻里子
うわあ、あの「日本新報」が倒産している‼
こんな衝撃で始まるのが『絶遠の春』だ。『警察回りの夏』(二〇一四年刊)、『蛮政の秋』(一五年刊)、『社長室の冬』(一六年刊)と続いた〈メディア三部作〉のその後の物語である。
とはいえ信頼の堂場作品なので、最初は暢気に構えていた。シリーズの主人公、日本新報の記者、南康祐が事態を打開する活躍をするに違いないと。なんならこの作家のサービス精神に、こう来たかと期待が高まった。というのも、本書の少し前に出たデビュー二十五周年記念作品『鋼鉄のレガシー』が、読者を喜ばせようという発想にあふれていたからだ。なにせ出版社が異なる警察小説の人気シリーズから、主要キャラクターが一堂に会して豪華な共演を見せたのだ。
ところが堂場は、そんな浅はかな予測を鮮やかに一蹴した。そこには衝撃の展開が待っていた。それこそ、倒産を上回る衝撃だった。
そもそもメディア三部作は、旧来のメディアである新聞の行く末を、現状に少し先んじて見つめるシリーズだった。
ここ二十数年でネット社会は急激に進んだ。人権、コンプライアンス意識など社会環境も劇的に変わった。その中で、変化の荒波にもまれる男たちの物語がこの三部作だった。ことに第三部となる『社長室の冬』では、部数減に歯止めがかからず、経営危機に陥っていた日本新報に身売り話が持ちかけられていた。相手は本社がアメリカにあるネットニュース専門サイト「AMCジャパン」だった。この時は条件面で折り合わず、買収話は流れたのだが、それでも新聞の先行きに一縷の光を投げかけていた。
ところが今回の『絶遠の春』では、冒頭で紹介したように日本新報の「最後の日」から幕が開く。あの“一縷の光”はどうなったのか。『社長室の冬』から十年、社会情勢、メディア状況を見つめてきた堂場瞬一が、おそらく一つの答えに至ったからこそ三部作のその後を書くことにしたのではないだろうか。
だから全国紙が斃れた後の記者の身の振り方の物語として、まったく独立した小説ととらえてもいい。メディア三部作を知らなくても問題ない。
先ほど「新聞の行く末を、現状に少し先んじて見つめる」と書いたが、倒産前の日本新報はひどいありさまだ。支局の統廃合、夕刊の廃止は、現実の社会でもある程度進んでいる。それに加え、ストレートニュースに専念するため文化部、生活部を廃止している。そりゃそうなるかとは思うが、これは文化や暮らしにかかわる分野で、新聞がその一翼を担っていたチェック機能が失われることを意味する。
ともあれ日本新報の南康祐は、社会部記者として「最後の日」を迎えていた。元同僚で妻の(酒井)優奈は系列の日新テレビに移籍している。とりあえず共倒れを免れた南は、ネットメディア「日新ネットS」を有志と立ち上げた。日本新報の魂を継承しつつ、新たに生まれ変わったことを示す意味を込めてのネーミングだった。社長以下十四人。社会班三人、政治班三人、経済班二人に経理、総務、広告担当スタッフを加えた小所帯だ。
人手は圧倒的に足りず、日々アップするニュース本数も少ない。取材環境を整えるため、警視庁の記者クラブに入ろうとするが難しい。会員数も思ったように伸びない。給料を捻出できるのか、心配は尽きない。かつての新聞社時代との対比で語られていくネットメディアの世知辛さに身につまされる思いがする。
さて、こんな苦境にいる日新ネットSに、あるタレコミがもたらされる。それは起死回生の特ダネになる可能性を秘めていた。政治担当と社会担当の記者気質の違いやら、スタッフ個人の事情やらが絡みながら、それでも南たちは地道な取材を重ねる。さらなる事実も突き止め、いよいよという熱が最高潮に達した時……。
この時、私たちは一瞬呆然とさせられる。しかし堂場は手を緩めることなく、容赦なく奈落に突き落とすような現状を突きつける。いや、予兆はあったのだ。かつて日本新報を買収しようとしていたAMCジャパンの社長は、青雲の志を語っていた。ところが、本書に登場するその後のAMCのありようがなにやら違う。でも、ネットにはありがちなことだからと、読み流していた。
堂場はネットニュースの行く末に何を見たのか、是非その目で確かめてほしい。それは新たな道を模索する旧メディアにとって本当につらい、つらすぎる現実だ。フェイクニュースや噂が流布され、真実はどこへいくのだろう。行きすぎや不作為、不祥事の監視は誰がするのか。暗澹とした気持ちどころか、虚無感すら味わわされた。
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